英国探検隊(第33回)
『林檎の木』補完作戦 -その1

銀婚式の記念に、二人が出会ったトーキーへ旅立ったアシャースト夫妻。
途中、車をとめたロマンティックなムーアは、夫フランクにとって、忘れ得ぬ思い出の地であった。
素朴でやわらかな空気につつまれたダートムーアの農場、そして、明るい光と知的な雰囲気がただよう都会のリゾート、トーキー
J・ゴールズワージーの『林檎の木』は、二つの対照的な世界のはざまで心揺れる主人公を描いた珠玉の名編である。

ところで、この物語でフランク・アシャーストが過ごしたダートムーアとトーキーでの日々は、彼にしてみれば、いわば予定せざる滞在であった。けれども、作品を読んでいると、予定していたにもかかわらず、行け(か)なかった所があることに気付く。
私たちは、フランクに代わって、彼が行けなかった二つの場所に行ってみることにした。

「では、こちらロバート・ガートン、それから僕はフランク・アシャースト。 僕たちはチャグフォードに行きたいと思っているんだが、どうかしら?」
「でも、足がいたそうですもの・・・」

J.ゴールズワージー(『林檎の木』より)

清々しい空気の中、宿泊していたB&Bを出発して西へ約7マイル。
その日は、計画していた Castle Drogo へ向かう前に、途中の町チャグフォードに寄り道をした。
チャグフォードは頭の中で想像していたよりも大きくてにぎやかな町だった。 ガイドブックに、イギリスでもめずらしい茅葺き屋根の銀行があると書いてあったので、緑茂る木々の間にちょこんとたたずむ静かな村をイメージしていた。でも、ムーアに位置するといっても銀行があると言えば、比較的大きな街なのは当然か。

チャグフォードの街
開店準備で忙しそう
茅葺き屋根の銀行
こじんまりとした町並み

町に入ったのは、ちょうどお店が開店する前の忙しい時間帯。駐車場には食料品などを積んだトラックが、しきりにやって来ては、せわし気に荷物の積みおろしをしていた。

車から降りて、まずは中心部をぐるっとひと回り。
ダートムーア散策の拠点になる町らしくて、農場用の道具などといっしょに、ムーア歩きのための長靴やコートなどを売っている店が目に付く。 小さな教会があり、パブや家々の前にはきれいなフラワーバスケットがつり下げられている。パン屋さんからはパイを焼くおいしそうな香りも漂ってくる。
思っていたより大きかったとは言うものの、白い壁が印象的な居心地の良い町である。

ムーア探検のアウトドア・ショップ

ブラブラと歩いて、車に戻ってくると結構良い時間になっていた。 チャグフォードで長居をしてしまった私たちは、フランクのように足が痛くなったわけではないけれど、予定していた Castle Drogo 行きをあきらめて、フランクが行けなかったもう一つの目的地へ向かうことにした。

ちなみに、『林檎の木』を映画化した『サマー・ストーリー』では、チャグフォードではなく、ウィディコムの設定になっている。


<参考にした本>
J.ゴールズワージー(渡辺万里 訳)『林檎の木』新潮文庫


(続く)