英国探検隊(第34回)
『林檎の木』補完作戦 -その2
その1も読んでね!

翌日、彼が気がついた時には、皆でトットネスまで汽車で、それから「ベリー・ポマーロイ城」へピクニックに行く計画ができていた。過去は断じて忘却の淵に投じてしまおう、と彼は皆と共に、四輪馬車の人となり、馬の方に背をむけてハリデイの横に席をとった。

J.ゴールズワージー(『林檎の木』より)

このあとすぐに、ある出来事がおこり、結局、フランクは「ベリー・ポマーロイ城」へ行くことをやめてしまう。そこで、私たちは、彼になり代わって「ベリー・ポマーロイ城」ってどんな所なのか、探検してみることにした。

レンタカーとは言え、初めて運転するベンツ(Aクラスだけど)で、トーキー方面からBerry Pomeroy 城を目指す。
地図を眺めるとどうしてもショート・カットの誘惑に負けてしまい、Bの狭い道をそろそろと走る。このような道は、たいてい両側が高い生垣で塞がれていて、とうてい対向できそうにない道幅の狭いところで必ず前方から大きな車がやって来る。Berry Pomeroy 城への道も例外であるはずはない。ベンツをバックさせて、路肩ギリギリで対向車とすれ違うこと2〜3回。

そうこうしているうちに、ようやく”お城はこちら”の標識を見つけ、ほっと一息。
鋭角にカーブを曲がって、林の中へ通じる坂を一気に谷間に向かって下ると、駐車場に到着した。

庭からお城を望む
ゲートハウスをくぐってお城の中へ

お城の前は手入れの行き届いた芝生のお庭が広がっている。そして、お弁当を囲む家族連れや走り回る子供達で結構にぎやかだ。ハリデイ一家でなくてもピクニックに行きたくなる気持ちがよくわかる。

7月も中旬になると、さすがにステラが摘んだ遅咲きの菫(すみれ)の花も咲いてはいなかったけれど、さわやかに晴れた青空から差し込む木漏れ日が、すがすがしく気持ち良い。
芝生を歩いて、お城の入り口へと向かう。
門と中の建物を取り囲む城壁は比較的きれいな状態で残っているけれど、一歩中に入るとそこはイングリッシュ・ヘリテージ。往事の面影を残すのは、雨と風にさらされて色褪せた石垣と石組み、崩れ落ちた建物の遺構のみである。

Berry Pomeroy 城の歴史は、ウイリアム征服王からこの地方を与えられたポメロイ家がもともとあった古いお城を壊して、その上に新しい建物を建てたところから始まるようだ。
その後、1547年チューダー朝の時代、サマセット卿エドワード・シーモアによって買い取られ、新たな建物が建て増しされた。

サマセット卿の宮殿
宮殿の向こうは深い谷

コートヤードを超えて進むと目の前にサマセット卿の宮殿が現れる。そそり立つ外壁から想像すると、まさにお城と呼ぶより宮殿といった方がふさわしい。さらに向こうは木々が生い茂る深い緑の谷へと続いている。サマセット卿は、宮殿の大きな窓からこの谷を渡るノスリや森の風景を見るのが楽しみだったそうだ。
そして、この Berry Pomeroy 城、実はイギリス有数の心霊スポットなのだ。いろいろな人たちが行方不明になった伝説、不思議な炎、秘密の廊下、そして数多くの幽霊の目撃談など涼し気なお話がたくさん語られているらしい。

『林檎の木』で、フランク・アシャーストが行かなかった「チャグフォード」と「ベリー・ポマーロイ城」。
フランクが、痛む足を引きずって「チャグフォード」までがんばっていれば、そもそもこのお話しは始まらなかった。そして、「ベリー・ポマーロイ城」までピクニックをしていれば、彼は25年後にダートムーアに戻ることはなかったかもしれない。

物語を思いおこすと、何かほろ苦い感覚がわき上がってくる。
けれども、イングランド南西部の明るい日ざしを前にすると、それも一瞬の思い。緑豊なカントリーサイドの魅力を満喫できる隠れた見どころである。


<参考にした本>
J.ゴールズワージー(渡辺万里 訳)『林檎の木』新潮文庫


Berry Pomeroy 教会にも行ってみる