英国探検隊(第64回)
眠れる騎士の丘 -その1-

マンチェスターの南、オールダリー・エッジ(Alderley Edge)の町を東へ向かう。緩やかな坂道をしばらく行くと、"TO THE EDGE"と記された道標が立っている。

私たちが車で登ったこの丘に、
むかし、一人の農夫が馬に乗って通りかかった。

農夫は、このミルク・ホワイト色をした、みごとな馬をマクレスフィールドの市で売るつもりだった。
「きっと高い値がつくだろう。」

TO THE EDGE

ウキウキと先を進む農夫の目の前に、突然、長い髪と髭、それに奇妙な衣服をまとった老人が現れる。
「その馬をわしが買おう」
けれども、市場の方が高く売れるに違いない、と考えた農夫は申し出を断った。すると、老人は
「それでは、マクレスフィールドに行くがよい。だが、その馬は売れずに、結局夕方わしに売ることになるだろう」
と言って、姿を消してしまう。

果たして、市で馬は多くの人たちから高い賞賛を受けるのだけれども、買い手がつくことはなかった。

がっかりして家路についた農夫は、朝と同じ場所に例の老人が立っているのを見つける。いくらでもいいから馬を売ってしまおうと、心を決めた農夫は、老人の後にしたがった。
老人は丘の上の大きな岩の前で立ち止まり、持っていた杖を岩に触れた。岩は二つに割れ、後ろから鉄の扉が現れた。
そして、さらにその奥は洞窟へと続いていた。

洞窟の中で、農夫は驚くべき光景を目にする。そこには、ミルク・ホワイト色をした馬を一頭ずつ連れた騎士たちが眠っていたのである。老人は、金銀、宝石を馬の代金として持っていくように促し、農夫に語った。
「彼らは、イングランドが危機に陥ったとき、眠りからさめ、戦って敵を海へ突きおとすのだ。」

アーサー王と円卓の騎士たちが、丘の下の洞窟で眠っているというお話は、イギリス各地に伝わっている。ウェールズのスノードン山やヨークシャのリッチモンド、ハドリアン・ウォールのシューイング・シールズ (Sewingshields) 城址などが代表的な例だ。

そして、オールダリー・エッジの伝説もそのうちのひとつである。

"TO THE EDGE"の標識に誘われてフットパスへ。
斜面をつたって、張り出した崖沿いの道を進むと、石で囲われた井戸がある。

この井戸は魔法使いの井戸(Wizard's Well)と呼ばれている。
井戸の上を見上げるとゴツゴツとした岩肌に人の顔が浮き上がって見える。
騎士たちの馬を揃え、彼らを守っていた魔法使いだろうか。

そして、その下には次のような言葉が彫られている。

魔法使いの井戸
(右上に魔法使いの顔)
顔の下に彫られた言葉
魔法使いの顔のアップ
DRINK OF THIS
AND TAKE THY FILL
FOR THE WATER FALLS
BY THE WIZHARDS WILL
これを飲むがよい
望むだけ飲むがよい
この水は魔法使いの意思により
流れ落ちるものなり
(アラン・ガーナー『ブリジンガメンの魔法の宝石』より)

アラン・ガーナーの『ブリジンガメンの魔法の宝石』は、コリンとスーザンの兄妹がオールダリー・エッジの町にやって来る場面から幕があく。

この二人も魔法使いの井戸を見つけるのだけれど、それが、"EDGE"を舞台にしたとんでもない冒険の始まりとなった。

"Wizard's Well"は、持っていたイラスト地図で想像していたより距離があった。ちょうど犬を散歩中のあばさんと一緒になり、案内してもらうことにした。

井戸は水がこんこんとわき出しているというよりは、淀んでたまっているといった感じ。

お礼を言うと、おばさんは、
「岩に飲んでいいと書いてあるけど、飲まない方がいいわよ」
と言い残して、犬の散歩に戻った。

<参考にした本>
Alan Garner: The Weirdstone of BRISINGAMEN Collins 1999
アラン・ガーナー(芦川長三郎 訳)『ブリジンガメンの魔法の宝石』評論社
K・M・ブリッグズ(平野敬一・井村君江・三宅忠明・吉田新一 共訳)『妖精事典』冨山房

(続く)