英国探検隊(第22回)
Hill Figure巡り -その4-
Hill Figure 巡りを最初からする。
今回の Hill Figure 巡りの発端は、こちら
Google マップで見る

『テス』の冒頭、ハーディはマーロット村周辺のことを、 ”白亜の尾根”とか”石灰質の丘陵”などと表現したり、エンジェルがブラジルへ旅立ったあと、残されたテスが働きに行く蕪畑を「・・・彼女は起伏の多い白亜質の台地に着いたが、・・・」というように描いている。

Hardy's Country の中心、ドーセット地方も南イングランド特有のチョーク質の地層でできているらしい。

テス・ブリッジ探検に向かった私たちも、ドーチェスターからシャフツベリーへと、この白亜の土地を移動することにした。
そして、道路地図を見ていると、Hill Figure のマークがところどころに点在しているのを発見。テス・ブリッジと同じくらい興味をそそられてしまった。Hill Figure 好きとしては、ぜひとも見ておかなくては。

まずは、ドーチェスターから少し南になるのだけれど、Osmington という村に寄り道。Osmington の Hill Figure は、車道から谷をへだてて向い側の丘の斜面にあった。

Osmington の Hill Figure

馬だけとか、人だけとかの Hill Figure はこれまでにも見たことがあったけれど、馬に人がまたがっているのは初めて。小雨混じりの天気のおかげで、馬も人も茶色く変色していて、それとは気付かず、思わず通り過ぎてしまうぐらい目立たないものだった。

この Osmington の Hill Figure の成り立ちにはいくつかの説があるようだ。最も有力なのは、1789年、 ジョージ3世が Weymouth を訪れたのを記念してつくったというもの。もともと馬だけの絵だったのに王様を付け足したという話もあるみたい。
ハーディの"The Trumpet Major" には、トラファルガーの戦いでの勝利をお祝するためにつくったということが書かれてあるらしい。

Osmington から北に向かって Sherborne へ。A352沿いに、Cerne Abbas という小さな村がある。
この村にある小高い丘の斜面にも不思議な Hill Figure が描かれている。地名から the Cerne Giant と呼ばれているが、またの名を Rude Man。ニックネームの通り、真っ裸で右手に棍棒をもった姿のかなり「不作法な男」の Hill Figure だ。

ナショナル・トラストの看板
小雨にけむるCerne Giant

地元の人たちは、何世紀にもわたってこの巨人のまわりで、メイポールの儀式をおこなっていたらしいのだけれど、いったいどういう目的で、いつ頃作られたのか、不明で謎だらけなのである。

ヘラクレスを表現したものではないかという説。村の修道院が近くにあるので、そこの僧となんらかの関わりがあったのではないかという説。また、豊穣神や多産神ではないかという説もある。
キャサリン・ブリッグズの『イギリスの妖精』 (Katharine M. Briggs: The Fairies in Tradition and Literature)を読むと、村人の家畜をむさぼり食らったあと、だらしなく寝入っているところを村人に殺された巨人の姿というお話も伝わっているようだ。

"in BRITAIN" の1999年11月号の特集では、Wilmington のLong ManUffington の White Horseとこの Cerne Giant が、イギリスの3大ミステリー Hill Figure であるということだ。

ところで、この日は天気が悪くて、午後からは大雨、巨人が見える道路沿いに車をとめて小雨になるのを待たなければならなかった。というわけで、かわいらしい Cerne Abbas の村も見ずにCerne Giant の丘も登らずに次の目的地へと出発した。

Fovant Badges
丘一面に Hill Figure が。右から3番目のが London Rifle Brigade

シャフツベリーよりももっと北東、ソールズベリーとの間に Fovant という村がある。
ここは、第一次世界大戦の頃、イギリス各地方の連隊が集まってくる訓練地だったらしい。1916年に "London Rifle Brigade" が自分の部隊のマークを斜面に Hill Figure として記したのが始まりで、この丘に続々といろんなバッジ(記章)が彫られたのだそうだ。
今は11個のバッジを見ることができる。ちょうど見晴らしのよい場所にプレートが設置されていて、どのバッジがどこの部隊のものか、すぐにわかるようになっている。


<参考にした本>
トマス・ハーディ(井上宗次、石田英二 訳)『テス(上・下)』岩波文庫
キャサリン・ブリッグズ(石井美樹子、山内玲子 訳)『イギリスの妖精 フォークロアと文学』筑摩書房


「テス・ブリッジ」を探しに行く
Hill Figure 巡りを続ける