英国探検隊(第63回)
Hill Figure巡り -その6-
Hill Figure 巡りを最初からする。
Google マップで見る

王冠は、村の上の丘にある巨大な絵だ。芝を刈りこんで、石灰の地面をむき出しにすることで絵が見えるようにするのだ。

(マーカス・セジウィック『魔女が丘』より)

火事で自宅を失ったジェイミーは、イースター休みをジェーンおばさんの家で過ごすことになった。ジェーンおばさんは、ドイツにいるだんなさんと離れて、今は娘のアリソンと二人で暮らしている。
家がある村の丘には、「王冠」を模したヒルフィガーが描かれているのだけれど、ここ何年間か、ほったらかしになっていて、雑草やイバラが伸び放題。丘の絵は、”直線と曲線がごちゃごちゃに組み合わさったものにしか見えな”くなっていた。
ジェーンおばさんとアリソン、ジェイミーは村人たちを誘って、この「王冠」の絵を削り出す作業をするのだが・・・。

マーカス・セジウィックの『魔女が丘』は、ヒルフィガーを題材にした小説だ。
ジェイミーに迫りくる恐怖と、村で起こったとされる昔の事件、二つの謎がヒルフィガーの存在を通して解き明かされる。
ちょっとしたホラー仕立てのミステリーといった味わいで、読み始めると結末を知るまで、やめることができない。

舞台はサマーセットの村、クラウンヒル。
地図を探してみたけれど、サマーセットにそんな名前の村はなさそう。架空の村のようだ。
しかし、登場するヒルフィガーもフィクションかと言うと、そうでもない。所は違うが、カンタベリーの西、ワイ(Wye)に近い丘の斜面に白い王冠の絵が彫られている。

物語のヒルフィガーは、知らない人には、王冠だとはわからないデザインらしい。ジェイミーの母親の言葉を借りると、

「要するに王冠に見えるっていうことよ」ママはそのときいった。「でも、いわれなければわからないかも。本当はただの模様だから。あのへんにある、ほかの丘の絵とはちがってね。スウィンドンの白い馬や、あの趣味の悪い巨人とかね」

それに比べて、ワイ・クラウンはどこからどう見ても、また、誰が見ても「王冠」である。ミステリアスな空気が感じられないのが、かえって残念なくらいだ。

ワイ・クラウン(Wye Crown)

Wye Crownは、エドワード7世の戴冠時に、Wye Collegeの教授によって1902年にデザインされた。王冠の模様は1887年のフロリン銀貨が元になっているらしい。大学の組合協会でしっかりと管理されているので、物語のように、模様が痛んでも、苦労して村人を集める必要はなさそうだ。
それに、魔女にまつわる伝説が隠されているようにも思えない。

共通点は、『魔女が丘』の作者マーカス・セジウィックがケントの出身ということ。
もしかしたら、 彼はこのヒルフィガーを見て、創作のインスピレーションを得たのかもしれない。


<参考にした本>
マーカス・セジウィック(唐沢則幸 訳)『魔女が丘』理論社

(続く)