英国探検隊(第53回)
ギャロウェイ最初の旅(中編)
前編も読んでね!

汽笛が、ついでブレーキのきしりが、問題の瞬間が近づいていることを彼らに警告した。 「カースル・ダグラス駅だ」フレンチはもう繩梯子を手にしていた。

F・W・クロフツ(『マギル卿最後の旅』より)

しばらくの間、入手困難だった創元推理文庫版の『マギル卿最後の旅』、昨年(2002年)の11月に14版が出て、書店に並ぶようになった。
あかね書房版と比べて、ページ数が約4倍。1ページの文字数はほぼ同じなので、ページが増えた分だけ、フレンチ警部の推理を楽しむことができる。(ただし、挿絵がないのはちょっと寂しい)

子供向けにまとめられた”あかね書房版”では、フレンチ警部のアリバイ崩しが冴え渡る。しかし、しかし、捜査の進行は紆余曲折があって、困難を極めていた。

物語の冒頭、ベルファスト・アルスター警察署のアダム・マクラング部長刑事が、マギル卿失踪事件の相談でスコットランド・ヤードを訪れる。彼の上司のレイニイ署長が、「謎を解く鍵は、アイルランドよりも、むしろイギリス本土にひそんでいる」と主張しているのだ。
スコットランド・ヤードも彼の言い分をいれて、アルスター警察と共同で、この複雑怪奇な事件に取り組むことを承知する。

そして、続々と寄せられる有力な情報。そのたびに、フレンチ警部とマクラング部長刑事たちは色めき立ち、おお張り切りで現場に出かけて行く。
けれども、手にした情報に何の脈絡も感じられず、事件との関連が見いだせないとなるや、レイニイ署長とフレンチ警部はお互いに責任を転嫁しようとする。また、あるときは、フレンチとマクラングのやり取りがモース警部シリーズのモースとルイスの関係を思い起こさせたりする。
こんな捜査の過程が、(仕方がないことだけれど)子供版では、大幅に省略されている。でも、大人が読むとそれなりに微笑ましく、笑ってしまうシーンばかりなのだ。

やがて、イギリス側の捜査は、北イングランドからスコットランドの海岸線に絞られる。

そして、ギャロウェイのカースル・ダグラス(Castle Douglas)の鉄道駅付近で、怪しげな車が目撃されたとの情報が飛び込んでくる。

カースル・ダグラスの
キング・ストリート

私たちもフレンチ警部のように、さっそく地図を広げてみた。
今いるサジック村からカースル・ダグラスまでは、20Km程度。時速40マイルで走ると、50分程度で目的地に到着する計算だ。

かつては、ダムフリース(Dumfries)とストランラー(Stranraer)、カークーブリー(Kirkcudbright)を結ぶジャンクションだったカースル・ダグラスも、鉄道が廃線となった今では駅舎はもとよりホームの跡も残っていない。

かつての駅のなごり、ステーション・ヤード

それでも、町の端、キング・ストリートの北詰めにステーション・ヤードと名付けられた場所を発見した。
ここは、昔、鉄道に関係する荷物や品物を置いていた所にあたるらしい。人通 りは少ないのだけれど、”ただの踏みならしただけの細道”も””も見つからない。クロフツの時代とは様変わりしているようだ。
これでは、何かよからぬことをたくらむのはとても無理。マギル卿の謎は深まるばかりである。

さて次の情報は、カーカンドルーズ(Kirandrews)湾からのもの。不審な自動車と船に関する証言だ。しかし、”あかね書房版”のマギル卿を頼りに進路を決めていた私たちは、不覚にもフリート湾をはさんで、カーカンドルーズ村とあい対する Ravenshall Point 付近までやって来ていた。
そもそも、カーカンドルーズなどという地名が文章の中にはなかったのだ。それに今日のB&Bはクリータウン。「夕方の6時には着きます」と伝えてある。

カースル・ダグラスを発ったのが、インフォメーションがちょうどクローズしたばかりの夕方5時。地図によるとカースル・ダグラスからクリータウンまでは約40Km。途中、カークーブリーに30分ほど寄り道をして、6時までに宿に到着するには、時速50マイルでとばす必要があった。というわけで、Ravenshall Point まで突っ走ったのである。

がんばったおかげでB&Bについたのは、6時少し過ぎ。ところが、無事に部屋に入ったのは7時前だった。この1時間弱にわたる空白の理由は、フレンチ警部でも解明不可能だろう。(このときのアリバイはこちら

翌朝、B&Bを出た私たちは、前の日に見かけた大きな茶色い看板のところまで戻ってみた。

看板には、石の遺跡を示す案内が書かれている。手招きをするような看板の文字にすいよせられ、私たちは北へと急な斜面 を登ってみることにした。

Wigtown 湾の眺め

小高い丘の上には、Cairn Holy Chambered Cairns と呼ばれる古代のお墓があった。ギャロウェイの静かな自然の中、立石に囲まれて海岸を見下ろすと、
Wigtown 湾のさざ波が遠くに見える。カーカンドルーズ湾は左手方向に見えていたはずなのだけれど、、、残念ながら、怪しい船の正体は不明のまま。
ここでも、マギル卿の謎にせまることはできなかった。

残る手がかりを求めて、私たちはストランラーとポートパトリックに向けて出発することにした。


<参考にした本>
F. W. クロフツ(内田庶 訳)『マギル卿さいごの旅』あかね書房
F. W. クロフツ(橋本福夫 訳)『マギル卿最後の旅』創元推理文庫


(続く)
ギャロウェイを西に進む