英国探検隊(第66回)
ふくろう舞う谷 -その1-

花のすき間から、ジェット機が一機、大空に尾をひいてとんでいくのが見えた。
しかし、きこえるのは川音と、谷間の斜面のどこかで羊を追う農夫のさけび声だけであった。

(アラン・ガーナー『ふくろう模様の皿』より)

暗闇を震わすふくろうの羽ばたき、息苦しいばかりのメドウスィートの甘いかおり。
ウェールズの谷間の村に、世代をこえて繰り返される悲しい人間ドラマは、この地に伝わる伝説の恋物語にさかのぼる。

『ふくろう模様の皿』は、日本に紹介されているアラン・ガーナーの作品の中でも、ひときわ美しく幻想的な物語である。
『ブリジンガメンの魔法の宝石』や『ゴムラスの月』の勧善懲悪ファンタジー、パラレルワールドを行き来する『エリダー』と違って、『ふくろう模様の皿』では、最初から最後まで現実世界で物語りが進行する。
けれども、そこはアラン・ガーナー、神話の世界をみごとなまでに現代に再現して見せる。
登場人物は、『マビノギオン』の時代に宿命づけられた運命の巡り合わせに翻弄される。彼らは、真実を見極め、過去の呪縛を解き放とうと、もがき苦しむのである。

『マビノギオン マソンウィの息子マス』に題材を借りたこの作品は、男女間、そして親子の間に絡み合う複雑な心理を描写して、大人でも十分読みごたえのあるストーリーに仕上がっている。

『マソンウィの息子マス』で、

プロダイエズ(プロダイウィズ:Blodeuwedd)は、魔法使いのグウィディオン(ギディオン:Gwydion)が”すてきな腕前のヒライ”(フリュウ・フラウ・グウフェス:Lleu Llaw Gyffes)のために、オーク、エニシダそしてメドウスィートの花を集めてつくりだした花嫁である。

ヒライが城をあけていたある日、ペンヒリン(ペンリン)の領主ゴロヌウィ(グロヌー・ペピル:Gronw Pebyr)が狩りにやって来る。日が暮れて、ヒライの宮廷に招き入れられたゴロヌウィはプロダイエズと相思相愛の仲になってしまう。

二人はヒライの謀殺を企てる。
いよいよ機が熟し、ゴロヌウィの投げた槍がヒライに突き刺さったその瞬間、ヒライは鷲に姿を変えて、飛び去って行った。

鷲になったヒライ
フクロウに変えられた
プロダイエズ
イラストは、ウェールズで買ったマビノギオンのポスターより
(Margaret Jones,
Welsh Arts Council)
グロヌーの石

悲しみにくれたグウィディオンは苦労の末、鷲のヒライを探し出し、元の姿にもどしてやる。
復讐を決意した二人。
まず、グウィディオンが、魔法でプロダイエズをフクロウにしてしまう。一方、ヒライはゴロヌウィとの対決を選ぶ。前にゴロヌウィがヒライを刺した同じ場所で、お互いの位置を入れ替えて対峙した。

ここで、ゴロヌウィがひとつの提案をする。
「このような事態になったのは、あの女の策略。私に直接槍が当たらないよう、あそこに見える平たい石を前におかせて下さい。」

申し入れを受け入れたヒライがゴロヌウィを目がけて槍を投げると、槍は彼らの間に置かれた石を貫いて、ゴロヌウィに突き刺さり、背中を突き抜けた。

ギンヴァイル川の堤にあるこの石は、以後”ゴロヌウィの石”(”グロヌーの石”)と呼ばれるようになった。

アラン・ガーナーは古代のケルト伝説に興味をいだいていたのだけれど、特に『マビノギオン』のこのお話に魅力を感じていたらしい。そして、『ふくろう模様の皿』の構想を練りはじめて3年ほど後、Dinas-Mawddwy の近くの Bryn Hall に泊まった彼は、あたためていたアイデアを一気に作品として書き上げたのだそうだ。

Dinas-Mawddwy を地図で調べてみると、北ウェールズのドーヴェイ川に面した小さな街であることがわかる。
Dinas-Mawddwy から、さらにこの川をさかのぼると、 Llanymawddwy という村があり、村の北に Bryn と名のついた小山がある。

アラン・ガーナーのファン、とりわけ『ふくろう模様の皿』を愛する者にとって、一度は、訪れてみる価値のある場所のようだ。

ウェールズをドライブ中に遭遇した豚の農家。

マソンウィの息子マスの意を受けたグイディオン兄弟は、ウェールズ南部に出現した珍しい獣、”豚”を手に入れるため、プウイヒルの息子プリデリのもとに向かった。

彼らは魔法を使い、金ずくめの12頭の軍馬と12匹の猟犬、茸から12枚の金色の楯をつくり、プリデリに差し出した。

この土産にまんまとだまされたプリデリは、豚を彼らに渡してしまう。 魔法が解けてしまったあと、戦いがおこったことは言うまでもない。

『ふくろう模様の皿』で、ヒュー・ハーフベーコンがこのエピソードをロジャーに語って聞かせる場面がある。自分があたかもグイディオンになったかのように。


<参考にした本>
Alan Garner: The Owl Service Collins 1995
アラン・ガーナー(神宮輝夫 訳)『ふくろう模様の皿』評論社
シャーロット・ゲスト(北村太郎 訳)『ウェールズ中世英雄譚 マビノギオン』王国社

(続く)