英国探検隊(第70回)
ふくろう舞う谷 -補完編-
その1その2その3その4

今回のウェールズの旅を終えるにあたり、あといくつか、物語と関係の深いポイントを巡って、『ふくろう模様の皿』の風景をしっかりと心に刻んでおくことにした。

そして、ある日のこと、山道を走ってきて ーちょうどあそこあたりだと思うー 道の角を曲がりそこねたという話なんだ。

(アラン・ガーナー『ふくろう模様の皿』より)

Llanymawddwyの村を出て、急峻な山道へと車のアクセルを踏み込むと、木の間隠れに見えていた谷間の村も、やがて眼下に過ぎ去っていく。しばらくすると、道路は右手に大きく曲がって、180度向きを変え、さらに高度を上げる。

このヘアピンカーブこそ、アリスンのおかさんのいとこ、バートラムがバイクで事故を起こした地点である。と言っても、小説では場所を特定している訳ではなく、TVドラマ化されたときに撮影で使われところらしい。
急なヘアピンカーブ

実は、この道をもっと、どんどん登って行くと、村で会ったおじさんが勧めてくれた例のビューポイントに到達する。そんなこともあって、もと来た道を戻るのをやめて、北東の山岳地帯へ進路をとった。

カーブを曲がりきったところで車を停め、木漏れ日がさす路面に立って、谷の方を眺めてみた。しかし、立ち並ぶ木々の幹と枝に遮られて、もはやLlanymawddwyの村を確認することはできなかった。

路面は山の斜面から落ちてくる枯葉や砂が薄く表面を覆っていて、確かにブレーキが効かないバイクだと、体ごと崖の下に放り出されてしまいそうだ。

そして、対向車とすれ違うことも難しいほど道幅が狭くなるころ、ますます険しくそそり立つ山肌は、丈の低い草と露出した岩がまだら模様を織りなし、遠く過ぎ去った深く黒い谷間とのコントラストが鮮やかさを増し始める。
険しい山道が続く

坂を登りきった山の頂、北ウェールズの風景を遥かかなたに見晴すことができる地点に駐車場がある。確かにおじさんが絶対に、と勧めてくれた価値を十分に実感できる絶景である。
しばし車を降りて、緑したたる山々の大自然の中で深呼吸をしてみた。

駐車場に至る道の端、山の斜面に小さな木でできた十字架と石碑が立っていた。この険しい山道は北西ウェールズから南のSt.David'sに抜ける巡礼者のルートだったらしい。そして、十字架は小さいけれど、信仰の強さを表していて、ここを通る旅人を中世以来勇気づけてきたのだそうだ。

斜面にぽつんと立つ木の十字架
車のテストランに最適(?)な坂道

その後、時は移って1920年代から30年代、オースティンのテストドライバーが車の性能を確かめるため、この急勾配のカーブを全速力で駆け抜けていったらしい。

中世の孤独で危険な信仰の巡礼路から、まったく違う意味で危険なルートに変わってしまったのである。

最後にあと二つ、TV版『ふくろう模様の皿』のロケ地にまつわるスポットに足をのばしてみることにしよう。

くだりきったところは、貧弱な粘板岩でつくった橋だった。アリソンが橋に近づくと、雨と橋の石しか見えない世界に、ひとりの男の姿があらわれた。ヒュー・ハーフベーコンが、橋にもたれて、川の増水をじっと見ていた。

(アラン・ガーナー『ふくろう模様の皿』より)

Dinas Mawddwyの町のほど近く、ドーヴェイ川に面してMeirion Mill Shopというお土産屋さんがあるのだけれど、お店の正面、舗装された現在の橋のすぐ脇に、草むしたパックホース・ブリッジが架かっている。

美しい二つのアーチを持つこの橋は、300年前に作られ、今は通ることはできない。けれども、往時は賑わうマーケットへと、たくさんの衣類を背中に載せたろばが、行き来していたということである。
二重のアーチを持つ
パックホース・ブリッジ

『ふくろう模様の皿』の舞台となったお屋敷のモデルは、Llanymawddwyのブリン邸である。TV版の撮影に際しても、ブリン邸でのロケが計画されたようであるが、残念ながら撮影の許可がおりなかったらしい。代わりに、リバプールにある Poulton Hall が選ばれた。

Poulton Hall は海峡を挟んでリバプール中心地の対岸、南側のBebington の街はずれにある。
曲がりくねった坂道の途中、薄暗い門の先は樹木にさえぎられて、お屋敷の中の様子を伺い知ることはできない。その門構えから推測して、広大な敷地であることは想像に難くない。

こっそりと木々の合間から建物の写真だけ撮ってすばやく車に戻ろう。勇気を出して門をくぐり、お屋敷の建物が見える付近まで歩いてみた。

すると突然、ひとりの男の人から声をかけられた。建物の修繕をしているらしく、作業着を着ている。理由を話すと、奥様と交渉するようにと、玄関までの長い道を連れていかれた。
扉を開けて出てきた女の人は品の良い若い女性で、「ふくろう模様の皿のことで、この屋敷を訪ねて来る人はたくさんいるわ。」と言って、外からなら自由に写真を撮ってもいいとのお許しをいただいた。

Poulton Hall を外から撮影

私たちが訪れたとき、おそるおそる敷地内に侵入したことからもおわかりのように、
建物の公開はしていなかったように思う。けれども、今は庭園を含めて、建物の見学も可能になっているようである。


<参考資料>
Alan Garner: The Owl Service Collins 1995
アラン・ガーナー(神宮輝夫 訳)『ふくろう模様の皿』評論社
THE Mausoleum Club 内のWeb ページ THE OWL SERVICE-The Legend Unravels