アイルランド探検隊(第3回)
Hill of Tara 妖精たちの息づかいが感じられる丘

ドルイドたちが歩いたのは、まさにこの地なのだ。ドルイドだけではなく、王や女王や、ケルトの戦士たちも。

O.R. メリング(『妖精王の月』より)

メリング作『妖精王の月』(O.R.Melling: The Hunter's Moon) はいとこ同士の二人の少女、アイルランド人のフィンダファーとカナダ人のグウェンが妖精の世界を垣間見るというものだ。フィンダファーと妖精王とのロマンスのみならず、グウェンが妖精の世界に入り込んだフィンダファーを人間の世界に連れ戻そうとして、ケルト文化が息づくアイルランドの土地を冒険してまわるストーリー展開が旅の魅力を一層かき立てる。
そういったことからこの物語はアイルランド妖精の旅への入り口といったところだ。

ストーリーはダブリンを流れるリフィー川にかかるハーフペニーブリッジから始まる。ハーフペニーブリッジは歩行者用の橋で、むかし通行料としてハーフペニー払わなければならなかったことからこの名前がついたらしい。

ハーフペニーブリッジ
ボイン川

この橋を望む古本屋でフィンダファーはタラの丘へと誘われる。
妖精を信じている二人の少女はタラの丘へヒッチハイクで行くことになるが、乗せてくれたのは古靴をいっぱい載せたボロ車で、運転手はレプラコーンだった。
タラの丘はダブリンの北西3〜40キロの所にある。このあたりはボイン渓谷と呼ばれていて、中心を流れるボイン川に沿って、数多くの古代アイルランド遺跡が眠る。ここから見つかった遺跡やモニュメントはストーンヘンジやエイブベリーのストーンサークル、そして、ピラミッドよりも古いらしい。

ケルト時代のアイルランドは小国に分かれておりそれぞれの国に王がいたが、その王たちの中の王はHigh Kingと呼ばれタラに居城を構えていた。各地の王たちはタラに集まり宗教的儀式や祭りを行っていたという。また、魔法に長けたドルイド僧、勇敢に戦う戦士、裁判官や吟遊詩人といった人々が住んでいた伝説の地なのである。

セントパトリック教会を左手にタラの丘を登る

ダブリンからタラまでN3の道を走る。
タラの丘はN3から西へ入ってすぐである。駐車場に車をとめて裏の門を抜けるとそこはもう丘への入り口だ。左手にセントパトリック教会を見ながら丘を登る。

塚があちこちに点在しているため登ったり下ったりと足元がやや不安定であるが、立石のある塚までぐんぐん歩く。立石のある塚の手前に「人質の塚」(Mound of the Hostages)が、すぐ横に「王座」(Forradh)がある。
立石は現在は Lia Fail と呼ばれていて、この運命の石に座った者が真の王なら石はうなり声をあげ、偽物が座ると沈黙のままであるという。

立石 Lia Fail
「人質の塚」の入り口

この日、Lia Fail の周辺にはあたたかい日ざしが降り注ぎ、あざやかな緑が一面に広がっていた。

「人質の塚」でフィンダファーとグウェンは妖精の世界の音を聞く。
そして妖精が存在することを確信した二人は真夜中に「人質の塚」にある鉄格子の扉の鍵をこわし、塚の中に入り込み野宿をする。「塚の中で眠ることは、妖精界にみずからをあけわたすこと」になるのだ。(この続きを知りたい人は作品を読んでみてください。)

もちろん野宿はできないが、塚の上にひとりで座り込み目を閉じてみる。
「人質の塚」に背を向けて歩いていくとずっと彼方まで見渡せる。上王も自分の統治する国をここから眺めていたに違いない。そしてはるか下から吹き上げてくる風が妖精たちの乗った馬の蹄の音に聞こえたりする。

駐車場の左手にはみやげ物屋とTea Roomがある。物語の少女たちのようにここでスコーンとTara Special Teaでお茶にする。BGMにエンヤの曲「ケルツ」がかかっていた。まるでケルトの世界へといざなうように。

(ここのお店で買ったRhubarb Jamはとても美味、お勧め!)


<参考にした本>
O.R.メリング(井辻朱美 訳)『妖精王の月』講談社