| 私の部屋では、ヒヤシンスが咲き終わり、今は水仙が咲いている。
パッケージの写真を見て変わった花の水仙だと思ったので、球根を買って鉢に植えたり水栽培にしたりした。そうしたらあの写真の通り咲いているのでびっくりする。
白く小さい薔薇のような花が、折り紙で作った手毬のように球状に集まって咲く。こぢんまりしている上に、白い花だから葬式の花のようだが、甘い香りがしてなかなかかわいい。
ヒヤシンスに水仙と、どうも花のいわれが耽美っぽいのが少し気になるが。一鉢の中に、自己愛のあまり死んだナルシストと、神を惑わした美少年が混在する。すごいな。
私の場合、月桂樹でも買ってきて植えとくほうが落ち着きはいいかもしれない。
---- この間、夜中に学校に行った帰り道のこと。
自転車で坂を上っていると、前方に不審なスクーターがいる。スクーターにしてはどうもスピードが遅すぎるのだ。近づいて、電灯の光が差したところで見てみたら、スクーターの隣に、歩道と車道を区切るガードレールを挟んで自転車に乗った人がいるようだった。
自転車に乗っていたのは女の子だった。正確に言えば、坂が急なので自転車を引いて歩いていた。スクーターの彼は、その女の子に合わせて超低速で隣を走っているのであった。
(あーもうわかった)
たぶん、あの感じは彼の方が女の子を好きなのだろう。研究室か部活が同じで、今日はたまたま二人とも夜遅くまで学校に残っていた、その帰り道だろう。同級生か、あるいは先輩と後輩か…どちらかといえば、同級生っていう感じがする。
後ろまで漏れ聞こえてくる女の子の声は、そんなに弾んでいるわけでもない。女の子から見て彼は、友達と友達以上のボーダーライン上にいるらしい。あるいは、相手の気持ちに気づいていないのか。それもあり得そうだ。
反対に、男の子の声は相手との間合いを必死に計っている感じ。わかる、君の気持ちはもうわかった。なるべくその子と一緒にいたいんだろう。だからそんなことをしてまで一緒に帰ろうとしているんだね…と心の中で瞬時に分析する。
前の二人が超低速で進んでいるので、一気に坂をこぎ上ろうとした私だったが、どうも邪魔ができない雰囲気だ。今夜が、彼にとっては千載一遇のチャンスかもしれない。目の前で彼の彼女に対する告白が始まりかねないようにも見える。
私が二人を追い越すには彼女の隣をすり抜けなければならないが、歩道が狭すぎてどうしても二人の邪魔をしてしまうことになる。もし、「あの、良かったら俺と付き…」っていうところで私が「すいませ〜ん」と邪魔に入ったら、私はきっとあの男の子に一生恨まれるだろう。いくら私でも、馬に蹴られて死ぬのは嫌だ。
あの二人の邪魔をするのはとても気が引ける。
時刻は、午前0時30分を少し回ったところ。しんしんと冷えて息は白く、空が晴れて星が出ている。路上は電灯が途切れると真っ暗。私は彼らが気にしない程度の距離を保って、自転車のライトを消し、そうっとゆっくりゆっくりこぐ。
おそらく、二人とも私より年下だろう。ハタチぐらいに見えた。ふと、スクーターのエンジン音が止まる。とうとう彼はエンジンを止めて、スクーターを引いて彼女の隣を歩き始めたようだった。本格的に、彼女の家まで送っていくらしい。頑張れ若者よ、君の年齢で守りに入るのは早すぎる、鈍い女の子を好きになったなら気づかれるまでそうやって粘りなさい。
二人の間の空気が重くならないように、一生懸命会話をつないでいるらしい彼。彼は彼女のナイトになりたいんだろう。ひとり暮らしでろくなものを食べてなさそうな、やせっぽちの体で必死である。
(ナイトになるなら、もうちょっと鍛えた方がいいかもしれないねえ…)
まずい。感動のあまり、泣きそうになってきた。一生懸命な人の姿とは感動を誘う。最近どうも涙もろい(でも私が感動してどうする)。
ますます追い越しづらくなって、私も自転車を降り、歩いて坂を上り始めた。あのような人の姿を見てしまってはどうにも邪魔なんてできない。だが前方を見ていると、あったかいような苦しいようなどうにも言えない気分になって涙だ。こんな夜中の学校帰りに涙だ。
目のやり場のない私は仕方なく空を見上げるしかない。うーん星がきれいだなぁ!(半分ヤケ)
ここであの二人を見て胸に去来する思い出のひとつやふたつ、あっても辛いし、なくても惨めだし……
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