もうもったいつけないでよ、神様。

 

 

 

02/9/28(土) pm 会うは別れのはじめなり(人物紹介風)

今日のは長いです。覚悟してお読み下さい。

【連打屋、頭ガンガン】金曜に人事の発表があり、私の部署は大幅に編成が変わることになった。

ちなみに先日お話ししたとおり、教育係のスウェーデン先輩は全然違うチームに移り、全く違う仕事をすることになった。部屋は一緒なのだが、たぶん今後話す機会は激減することだろう。

ということで、私は頼りになる教育係がいなくなってしまい、不安で頭がガンガンして仕方なかった。同期のトミーもバード君も現状維持で教育係の先輩と一緒のチームにいるというのに、こんなの私だけだ。この間のようなパニック状態よりはマシだが、一週間前からわかってはいても正式発表されると改めてショックでやや呆然。

【アメリ先輩、優しく】次の教育係が決まるのか、それとも誰もいないまま放置されるのか非常に心配だった。あまりに心配なので、スウェーデン先輩の同期で先輩と仲の良いアメリ先輩(女性)にたずねてみた。

アメリ先輩は背が高くて髪が長く、きれいな感じの先輩で、細かいことまできちんとしており控えめで優しい。雰囲気的にはアップル先輩に近いが、アップル先輩よりかわいい物好きなところが少し違う。

私「アメリ先輩、私は一体どうなっちゃうんでしょうか。もうスウェーデン先輩いないし」
アメリ先輩「そうだよね、それ、誰かに聞いてみなよ」
私「やっぱりそうですよね……聞くならやっぱりゼブラ係長かなぁ」
アメリ先輩「そうだね、それがいいよ。ちょっとつっついてみなよ」

【ゼブラ係長、あっさり】ゼブラ係長は30代半ば、女性総合職第1号の年次に入社したバリバリキャリアウーマンである。既婚でお子さんがおり、夫は別部署の課長。それでも見事に家庭と仕事を両立させている。

今はだいぶ体型に貫禄が出てきてしまっているが、それでも服は私よりずっと新しめのテイスト。顔立ちがくっきりしていて、若くて痩せていた頃はずいぶんな美人だったろうと思う。私のような仕事一辺倒になりそうな人間としては、目標とすべき存在である。

私「あのう、係長。私の次の教育係はどなたなんでしょうか? 誰もいないんでしょうか、それともスウェーデン先輩のままとか?」
ゼブラ係長「ああそっか、そうね。ワセダ君にいっとかないとね」

私の次の教育係はワセダ先輩(男性)にあっさり決定。

【ワセダ先輩、戸惑う】ワセダ先輩はスウェーデン先輩とは同期で仲がよい。スウェーデン先輩が抜けてしまった分を、ワセダ先輩が埋める感じの編成になった。ワセダ先輩も今まで厳密には違うチームでやや違う仕事をしていたので戸惑い気味。

早速、スウェーデン先輩と私で対応していた仕事の打ち合わせにワセダ先輩が入って引き継ぐ。頭を回すより先に体を動かし、力業・ハッタリ・努力がモットーの武闘派スウェーデン先輩とは全く対照的なタイプで、ノリより先に頭を回す雄弁な頭脳派。新しもの好きで「日経TRENDY」をよく読んでいる。

ワセダ先輩には以前同期のトミー(東大卒)が一時的についていたことがあって、足を動かす前に頭を動かすタイプのトミーはとても性格が合うから嬉しいとよく言っていた。ちなみに、トミーと私はワセダ先輩とスウェーデン先輩のようなもので、全く対照的。ということは、私とワセダ先輩は全く反対なのだろう。それは間違いない。

ワセダ先輩と私の共通点はど田舎出身ということくらいだ(まあ、これは大きい)。ワセダ先輩は私が都会に衝撃を受けるたびに、「これだから東京もんはやだよなぁ、連打屋」と決まって私に言う。自分と同程度の田舎出身者が来たのが嬉しかったらしい。

【アップル先輩、思いやる】これまでスウェーデン先輩と私とアップル先輩のチームで2ヶ月ばかりやってきた仕事からスウェーデン先輩が抜けてしまうことになり、事実上最後の打ち合わせをやった。

アップル先輩がスウェーデン先輩から担当を引き継ぐことになり、先輩が持っていた資料は私が全部もらうことになった。バーティカルファイルにとんでもなくたっぷり挟み込まれてあふれんばかりの量だったが、とりあえずもらった。

私「あのう、他の資料も本もできる限り下さい」
スウェーデン先輩「本までやるかよ! あと、資料は前やった仕事のをたまに読み返したりするんだよこれでも」
私「あ、そうですか」
スウェーデン先輩「まあ、何かあったらお助けマンやるし、聞きに来ればいいよ」
私「はい」

どさっと預けられた資料を前に私が今後の事を考え、スウェーデン先輩が遠い目をした時、向かいに座っていたアップル先輩がこう言った。

アップル先輩「私、席はずしたほうがいいですか?」

いえいえ、そんなことはしなくていいです。……でもよほど暗い雰囲気だったらしい。

【スウェーデン先輩、頭を抱える】来月からの変化に私は頭がガンガンしたが、それは新しい仕事に移るスウェーデン先輩も同様らしい。

新しいチームのミーティングに参加したあとデスクに戻ってきて、「ダメだ、わかんねぇよ」と言ってしばらく呆然としていた。

私「わかんないっていうのは、言葉とか? 今後のことですか?」
スウェーデン先輩「言葉レベルからしてわかんないし、この先どうなんのかもわかんねー。俺やっていけるんかなぁ」
私「そうですか…」
スウェーデン先輩「あー、これからはzakzak見てた時間全部勉強だな」

頭を抱える先輩。冗談と思われるかもしれないが、ヒマさえあればzakzakのチェックをしている先輩にとって、zakzak断ちとはすごいことなのだ(普通はそもそも勤務時間中にそんなもの見ないが)。

【教育係引き継ぎ】残業時間のまっただ中に、ワセダ先輩とスウェーデン先輩と私の3人で仕事の打ち合わせを行った。

私「さっきゼブラ係長にお聞きしたら、私の教育係はワセダ先輩になるっぽいです。どうぞよろしくお願いします」
ワセダ先輩「そうか。俺もいろいろ考えないといけなくってなあ」
スウェーデン先輩「連打屋、お前素直だから、気をつけないといろんな奴からガンガン仕事振られるぞ」
私「そうですか?」
スウェーデン先輩「そうそう。お前は仕事振りやすい。ヘタするとどんどん降ってきて大変になっちまうぞ。まあその辺は、ワセダが考えてくれるだろうけどな。何やりたいかしっかり自分で考えて、自分を持って仕事しねぇとダメだぞ」

ワセダ先輩「連打屋さぁ、たぶんこれから俺の下ってことで、俺の持ってる案件寄りの仕事になるよ。実は俺、アメリからも引き継ぐ仕事あったりするし」

私の心中は穏やかでない。2人の教育係を持つということは、2人が関わった仕事の両方をこなさないといけないので、たぶん私はバード君やトミーより量が多くなる。

トミーはフラワー先輩ひとりにはりついているから、種類的にも1つだけだが、私は2種類の仕事を倍の量でこなすわけである。ちなみに、スウェーデン先輩の引き継ぎ活動が始まってからここ1週間ばかり、毎日10時すぎまで残業している。この日なんて早朝出勤もして、夜も残業していた。すごい私。

ワセダ先輩はクールな仕事をたくさんやっているようなので、中身としては楽しみなのだが、それについていく時に私の体力がもつのか心配だ。

ワセダ先輩「スウェーデンは連打屋に今までどんな感じで教えてた?」
スウェーデン先輩「細かく考えるやつはアメリに入門させて、能率良く作業する感じのはアップルがうまいからそっちで教えてもらう感じだったな。ま、お前はいろんなやつに聞き回ってるのが合ってるよ」

確かに、私はいろんな人に聞いて回る方が盗むものが多いから極力そうしている。こういうのは人と接するのが好きな私の方が得意な芸当で、同期でも人見知りなトミーはあまりやらない。

【遺言?】

スウェーデン先輩「お前はもうちょっとセクシー感を出していかないとな」
私「はい?」
スウェーデン先輩「はい?じゃねえよ。セクシー感だよ、セクシー感。大事だぞ! アップルだって、入社した時から俺がうるさく言ってきたから今あんなにセクシーなんだ」

滅茶苦茶な理屈だ。アップル先輩は確かに美人だが、その90パーセントは持って生まれたスタイルと美貌。私は逆立ちしても真似できないのに、「セクシー」という美感と語感が大好きなスウェーデン先輩はいつもこればっかり言う(ちなみに、この間仕事で作ったエクセルファイルの書き込みパスワードも「セクシー」)。

セクシーなどという単語とはほど遠い私のキャラクターをわかっていて言うのをやめないということは、とりあえず社交辞令として言っているというだけかもしれない。どちらにしろ、私はそんなふうになるのは無理だ。

私「私は別にセクシーじゃなくていいです。もともと無理ですし。おばあちゃんに好かれる今のニッチ路線で行きます」
スウェーデン先輩「それじゃダメだっつうんだよ。今まだ26だろ。ばあさんになってもできることを今やんなくてもいいんだよ」
ワセダ先輩「そうそう。連打屋、ばあさんになったらへそは出せないぞ、へそは」
スウェーデン先輩「コンサルやってやるよ、コンサル。セクシーコンサル」

今後教育係になるワセダ先輩がうなずいているのが恐ろしかった。私は一体どうなっていくのだろうか。

まあでも、「エロい」=「cool」の読みかえが必要なスウェーデン先輩語なので、きっと「セクシー」とは「一人前」とかそういう意味だろう。

「お前はもっとセクシー感を出せ。セクシーコンサルは引き受けた」というのが最後のアドバイスっていうのはどうかと思う。

……まあとりあえず、一人前になるために頑張ろう。

 


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02/9/24(月) am もうたくさん

(その1)3連休の間、仙台から友人が来ていた。

おそらく周りを見回して最も付き合いの長い友人で、私のことは高校生の頃から知っている、10年来の友達である。

その友人より、私の人生のアップダウンが年を増すにつれ激しくなっているとの指摘を受けた。全くその通りで何も反論できない。

この日記もはじめの頃は平和だったが、年を追うごとに「人生なんてららーらーららら、らーらー」系の話題が多くなっているそうだ(こんな言い方ではなかったが、まあこういうことを言っていた)。これもその通りで全く反論する気もない。3年前にあたる、99年9月の日記ののどかなことのどかなこと。ぜひお読み比べ下さい。

人間は年をとるごとに、少しずつ知らなくていいこと、知りたくなかったことを知っていくもので、ミスチルの「ニシエヒガシエ」の歌詞そのままだ。

(その2)私はどういうわけか、何かみんなと同じ事をひとつやるにしても、他の人のようにうまくやることができない。例えば、50メートル走をみんな普通にそれぞれの速さで走り終えるのに、私の時だけはスタートのピストルが暴発したり、途中で靴が脱げてしまったり、微妙にフライングでもう一度走らされたり、いつもトラブルが起こってどうしてもドラマティックになってしまうのだ。

人生を進める上での自分の不器用さが時々すごく嫌になる。どうしてこんなに、いつもがむしゃらに力を入れていなければ、他の人と同じだけの時間を過ごすことができないんだろう。

私の祖父が死に、その介護で疲労困憊した母が大怪我をして死線をさまよい、祖母もまたガンで入院して家族はその介護で疲労困憊してぐちゃぐちゃになっている状態の時に、就職活動まっただなか。ストレスで早鐘のように打つ心臓の痛みを抱えながらSPI。

友達がたくさんいてなじみのあった仙台から、友達が誰もいなくて孤独最高潮の東京へと、予想外にいきなり引っ越し、さらに普通は1年面倒を見てもらえるはずの教育係の先輩も2ヶ月でいなくなるという、社会人1年目。

他の友達と我が身を引き比べても、こんなにぐちゃぐちゃしてアップダウンが激しいのは私だけだ。いつも全力で頑張らざるをえなくなっているのも私だけ。

淡々とした平和な時間を積み重ねて年を取ることがどうしてできないんだろう。どうして私の生き方はいつも強制的にジェットコースターに乗せられているような感じなんだろう。よく、苦しくて泣きたくなる。私は平和に生きていたいのだ。こんな風に、みんなの見せ物になってしまうような突撃人生は心底嫌なのだ。

(その3)前述した仙台からの友人と一緒に、この週末、結構有名なジェットコースターに乗った。ゆっくりゆっくりてっぺんまで登って、ややスピードを上げてから一気に落ちて、上がって落ちて上がって落ちて、らせんにぐるぐるぐるぐる回って、その後また上がって落ちて上がって落ちて、5分も乗っていたらもうふらふらになった。

上がって落ちてを繰り返していた、乗車時間のちょうど半ば頃、「もういい! もうやだ! ほんとにもういい!!」と心の中で叫んでいた。

ふと、それはどこかで覚えのある感覚だなと思った。もういい、助けてくれと思いながら、それでも逃げられずに強制的にアップダウンが襲ってくるこの感じ。それはまさに、トラブル続きのジェットコースター・マイ・ライフの感じ。

本当に、もういい。お腹いっぱい、もうたくさんだ。私は心の平和が欲しい。私は別に、トラブルが好きなわけじゃない。人と同じにできないことが最近、本当に辛くて苦しい。

02/9/21(土) am 大衝撃

私の日記が最近退屈だな、と物足りなかったみなさん、おまたせしました。

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私の教育係であるスウェーデン先輩が、きたる10月1日をもって異動することになった。

職場が人事異動の時期をむかえ、あろうことか、全く違うチームに異動する。

ただの異動なら話もわかるが、今後のチームでは今までのスキルも知識も人脈も全く意味をなさなくなる。全く違う仕事をすることになるらしい。入社以来のノウハウがゼロに戻る大変化である。部署としては同じなのだが本当に違う動きをするチームなので、先輩の異動後は口もきかなくなる可能性大。

ということはどういうことかというと、正式配属2ヶ月にして、私には教育係がいなくなることになった。

スウェーデン先輩自身も、ガラになくパニック状態になっていたが、私はもっとパニック。近年まれに見る大パニックである。スウェーデン先輩は私に事実を内々に告げてオフィスに戻ったら、今後先輩と同じチームになる私の同期のバード君に派手なプロレス技をかけ始めるし、私は私でデスクに戻った後書類を何枚も書き間違えるし手はふるえるし大変だった。

ただ単に独り立ちしろというだけなら話もわかるし、ここまでにはならないが、一番当てにしていた先輩が急激に消えてしまうのはどうかと思う。しかもスウェーデン先輩は若手でもよく仕事ができるので、持っている仕事の規模そのものが大きく、レベルも高い。そういうのが今後たぶん、全部私に落ちてくる。

管理職以下はスウェーデン先輩が最も経験値のある人だっただけに、その仕事をスキル知識ゼロに近い私が引き継ぐなんて今後が恐ろしい。

久しぶりにこれだけの刺激的な出来事が起こった。

先輩当人としても来月の予定をばんばん入れていて、面白い仕事も入ってきていたのでショックだったらしい。一応私の教育プログラムについてもびしっと計画があったりしたらしく、「スウェーデン流ってのをしっかり仕込みたかったんだけどな」と残念そうに言っていた。私としても、この先輩のやり方を盗むのはかなり使えると思っていたので残念である。

もともと教育係がいてもあと半年というところだったのだが、私の予想としてはその半年分の量は非常に大きい。4月までの教育期間はフルに仕事のスタンスを盗み、ついでに情報収集方法とかがつまったライフスタイルも盗み、その後もいろいろ小出しに盗もうと思っていたのだが、それがあと1週間に短縮されてしまった。机上にスウェーデンの旗が立っているような妙な先輩だが職場のエースなので、たかだか半年でも一緒に行動すればおそらく相当量のものを吸収できたはずだ。残念でならない。

残念がっても仕方ない。学ぶことの多い先輩がすぐにどこかに行ってしまうのは私の今までの生活の中でよくあって、大概、「この人のやり方を教わりたいなあ」と思った人との縁は薄くなる(そして、どうでもいい人との縁ばかりがずるずる続く)。

今日の会議に先輩が呼ばれていると知り、妙に胸騒ぎがした。会議前、「どうも私、もう先輩にいろいろ教えてもらえなくなる気がするんですよね」と私は言った。スウェーデン先輩本人からは「まだ何も決まってないんだし」と言われたのだが、やはり嫌な予感は消えず、見事的中してしまった。最近、この手の勘は異常なくらいに良く当たる。

まあ仕方ない。楽しい時期は長くは続かないのだ。特に私の場合、神様がいつ私の人生を転がしてやろうかと楽しみにしているんだから。「自分が何やりたいか明確にして仕事しろよ。与えられるものだけじゃ自分が広がんないぞ」…と、スウェーデン先輩から遺言めいたアドバイスをもらった。

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でもそれにしても、たった2ヶ月で教育係がいなくなるなんて普通あり得ない速さだ。教育係消失最短の人といえば同じ部署の2年目であるフラワー先輩がいるが、秋採用で翌年の春に教育係が異動してしまったらしい。入社半年で教育係がいなくなったのだが、それにしたって私より4ヶ月は長い。最短記録更新!(全然嬉しくない)

動揺のあまり今にも泣きそうな状態だったので、同じように残業をしていた同期の男の子・トミーに帰り道で相談した。トミーは東大卒で、私より2歳下。大きくて裕福な実家(しかも本家)で、一人っ子かつ繊細という絵に描いたようなおぼっちゃんである。私と同じチームでは唯一の同期で、前述したフラワー先輩の下についている。ちなみに、トミーとフラワー先輩は同い年だ。

私「どうしようトミー。はっきり言って泣きそうだよ」

トミー「でもまあ、君が一番恵まれてたからね。僕なんか、教えてもらったりしないし。フラワー先輩、聞いてもわからないから」

私「…そっか。」

トミー「それに連打屋ちゃんは、年齢的にはあと3〜4年で主任クラスだからね。独り立ちして仕事覚えるの速くなるほうがいいかもしれないよ」

流動性の高い部署で、しかも過渡期に入社した私たちの悩みは深い。いろいろ学ぶことの多かったスウェーデン先輩に2ヶ月みっちり教わっただけで、トミーがフラワー先輩からトータル8ヶ月分学ぶことと同じ、ということは確かにありえる。それに私は自分が負っている年齢というギャップをどうにかしなければならない。

私「そうだよね。アップル先輩と同い年なんだもんなあ…」

トミー「アップル先輩みたいに結婚しないの? 嫌なら結婚でもして養ってもらいなよー」

私「そんな人いないよ! 第一、今どき妻をひとりで養える能力のある人はいないし、仕事もやめたくないよー! こんなに頑張って入社したのに」

トミーは精神的には女の子に近い(私より女の子っぽい)ので、発想が極めて女性的で時々困る。即結婚できるような奴が、どうしてこんな風に東北をスパッと捨てて東京に出るだろう。

とにかくこうなったら、スウェーデン先輩がこっちにいる残りの数日で盗めるものは全て盗み、どうせ今後は全く違う仕事になることだし、もらえる資料や参考書はもらえるだけもらうことにしよう。

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なんていうか、食人鬼に追われてる場合じゃなくなってきた。スウェーデン先輩による私の形容は「直進」「突撃」らしいが、その言葉通り、まるで女武者のようにやらないとやってられないだろう。

やっぱりそうかー……私ってやっぱり……だよなー、そんなのが私らしい感じなんだよなぁ……常に戦い続けるっていうか、転がり続けるっていうか……。普通の平穏な生活やささやかな幸せなんて、私には全然来ないんだよなぁ…

02/9/16(月) pm 後半は大ボラ

先日日記に書いたフェアリーちゃんとオザケン君が、何と私がフェアリーちゃんの相談に乗った夜に破局してしまった。

フェアリーちゃんの愛情表現が、ろくろく彼女もいたことのなかったオザケン君には重たすぎたらしい。コミュニケーション方法が一致しないという問題は重大である。そのせいで実はお互い心労のため体重が減っていたということらしい。

それは別にどちらかのどこかが悪かったと言うことではなくて、猫と犬がお互いに恋をしてしまったようなものだから仕方ないのである。食人鬼と人間の恋愛というか。

お互いに好意を寄せているのは間違いなく、それが真剣であるのも間違いないことながら、お互いが相手にそれを伝えようと表現すると、そのどれもこれもが相手を傷つけてしまう。よりによって、相手を最も傷つけるような表現手段しか持っていない。

犬が一生懸命しっぽを振れば、猫はそれにびびり、猫が最大限の努力をして身をすり寄せても、犬は全然足りないと思う。

食人鬼は最高の料理を恋人に食べさせてあげようと思ったのに、出されたのは他の人間の肉で、食人鬼の恋人である人間は、恐怖に身がすくむ。食人鬼がどんなに愛情を表現しても、どうして他の人間を害するのに自分だけは違うのか、いつか自分も食べられてしまうのか、と食人鬼の恋人は悩み苦しむ。人間である恋人が自分の愛情のせいでひどく苦しみ傷つく様子を見て、食人鬼は自らを責め、食を断ち、最後には命をすり減らす。食人鬼が食を断てば、人間も食を断つ。2人が一緒にいることが、互いの命をすり減らしてしまう。

要するにこういうのは不可能恋愛なので、最後にはさようならするのが一番お互いを傷つけずに済む方法である。どちらが悪いわけでもない。はじめからうまくいくはずのない、悲劇的な組み合わせ。人間は人間の恋人を見つけなければならないし、食人鬼は食人鬼の恋人を見つけなければならないという、そういうことだ。(こういうの、いつかも書いたな。そういえば。)

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ちなみに、私はいつも食人鬼に好かれるパターンでして、相手の真剣さを痛いほど感じるものの、それがいちいちホントに痛くて我が身をすり減らすので苦痛でしょうがないという、そういうことの繰り返しです。そういう不可能な組み合わせの時に限って、相手が自分に夢中になってしまいます。

どうやら人間というのは、自分が持ち得ないものを持った人間に一端ハマると、なかなか抜け出せないようでして。いつも私は冷静なので、相手の言動から自分が一体どう思われたためにそんな馬鹿なことになっているのか分析してみるんですが、全ての場合で、相手と全く正反対の私の特性に執着をもたれていることが判明します。

いつも私は冷静なので、これは絶対成立しない関係だということに早々と気付くのですが、これが不可能だということを私が身をもって(具体的に言えば、激しく痩せるとか)目に見える形で示してあげない限り相手は放してくれません。でも目に見える形で示した途端、手のひらを返したように逃げ出します。そう、レクター博士のような男気はないわけですね。レクター博士は、相手を傷つけないために我が身を傷つけましたが。

私に「自らと反対の特性」を見て執着するような人なんで、いつも食人鬼のパターンは決まっています。要するに、私と全く反対の特性を持った人ということです。変化球しか投げないとか。恋人に困ったことがないとか。破天荒な肉食獣タイプとか。今まで現れた食人鬼全部そんな感じです。最悪です。

一番最近に現れた食人鬼には、これは一言言って置かねばなるまいと思い、「自分はいつもそういうことを繰り返しているので、繰り返すのがもう嫌だ」と勇気を振り絞って大宣言してみました。でも年を追うごとに食人鬼のグレードがハイレベルになっていまして、私が食えなくなったくらいのことではびくともしない有り様。

以前の食人鬼は私が食えなくなっただけで逃げてくれたんですが、ハイレベルになった食人鬼の場合、むしろ「とにかく食事をとれ」と私をひどく叱りつけ、同じ穴のムジナになることを強要されました。だから脳みそは食べられないって。

私は、最後にはまるでクラリスがやったように、このままだと手錠をはめて監獄送りにするぞというような厳然たる未来図を示したんですが、そしたらびびって飛行機に乗って遠くへ逃げていきました。それでも執着なおやまず、時々香水付きのエアメールが届きます。アホか。

何年かに1度必ずそういう食人鬼が出現するのですが、そのたびいつも友人に同情されます。「どうして君は、いつもそういう一番難しいカードばかりひくんだ」というような感じで。そりゃ出家も考えようというものではないですか。

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嘘です。書いてみたかっただけです。こういう「プチ嘘」(その割に大ボラだけど)を混ぜると、いかにも妙齢っぽいリアリティが出るので今後もぼちぼちやろうかと思います。

それにしても、「ハンニバル」のあらすじって結構使えるんですね。

02/9/15(日) am 恋愛とは、究極の需要と供給

先日、会社の友人・フェアリーちゃんの恋愛相談に乗った。小柄で色白、目が大きくて、とてもかわいい女の子である。ちょっと不思議系だがその分発想が面白い女の子だ。

フェアリーちゃんは、お昼の社員食堂帰りに思わず涙ぐんでしまうような状態で、ご飯もろくに食べられなくなっちゃっていた。立場としては同期だが年齢的には私の方が2歳上なので、どうもほっておけないなと思っていたら、その日偶然帰りが重なり、夕飯を一緒に食べながら話を聞いた。

フェアリーちゃんの場合、以前、研修中にも同じ班の男の子からセクハラに近い暴言を言われ続けて悩んでいたのを、私が相談に乗って指導の先輩に話を通したことがある。彼女としては相談しやすかったのかもしれない。

彼女は何と、同期の男の子とつきあい始めていたのだった。相手はオザケン君といい、身長は高くなく(むしろ低く)、東大出で頭はいいのだろうが不思議系で、常に自信なさそうにしており頼りない。私に言わせると「たぶん微塵も甲斐性無いな、この男」というのが素直な感想である。

東大とか京大とか早稲田とか慶応とか、とりあえず有名大学の出の人には結構会ったが、甲斐性の有無は異常にはっきり分かれる。地方出身の苦労人に甲斐性のある人が多いものだが、オザケン君は地方出身なのにそういう「骨」も「芯」も全くなく、ふにゃふにゃである。

社員食堂で昼に会うと、「今日も仕事がなくてなくて、ヒマ」が口癖。でもはっきり言って、自分から仕事を探せば結構あるはずで、勉強したいことがあったらどんどん言って吸収すればいいのだが、そういう気概がないらしい。そんな情けないオザケン君を、フェアリーちゃんはなぜか熱烈に好きになってしまったようなのだ。

それで、彼女は彼に対する好意が隠せず、職場でも会うと嬉しそうにしてしまうらしいのだが、反対に向こうからそれを無視されむしろそっけなくされるので、辛くて仕方ないのだという。そのせいで食欲もなくなり、めっきり痩せてしまった上に、涙もろくなってしまっているらしい。

それにしても、あんな甲斐性なしのオザケン君をそこまで好きになれるとはとんでもないファンタジスタである。私にすれば欠点にしか見えない部分が、フェアリーちゃんにかかると途端に美点に変わってしまうらしい。そんなファンタジックな転回が随所にちりばめられた話を2時間聞いて、私は心から驚嘆した。

フェアリーちゃん「あのぺたっとした髪とか、短い手足がたまらない。いつも背中を丸めてるのがとってもかわいくて」

私「………そ、そうかー、なるほど(髪ぺたっとしてた? そんなの記憶にすらないよ……私の興味のなさがうかがえるなこりゃ。背中丸めてるのは、自信のなさの表れで、私は一番やなんだけど…それが「かわいい」のかぁ…うーむ)」

ブラボー! 恋愛ってなんて面白いんだろう。私はきっと誰かを好きになったとしても、こんなにクレイジーには絶対なれない。私はどこか冷静に相手の特性を過不足無く分析するので、フェアリーちゃんのこの様子はSF映画みたいなものだった。

恋をすると、たいていの人はアホになるらしいと聞いてはいたがしかし。オザケン君は「今まで全然もてなかった」とフェアリーちゃんに言い、同期の女の子と仲良くしていると嫉妬するフェアリーちゃんには「それよりむしろ男友達との方が仲がいい」と言うらしい。全くその通りだろうと私は客観的に思うが、フェアリーちゃんはそれが信じられないらしいのだ。

なので、私から見たら単に「憐れみ」「母性愛」に近い感情で接している女の子たちがみんな恋敵に見え、ムカムカして仕方ないらしい。ブラボー!!である。オザケン君相手にそんなに嫉妬してくれる人は他にないだろう。

私「まあとりあえず、そんなにオザケン君を好きになれるだけでもフェアリーちゃんは自信持っていいよ。たぶん、オザケン君は生まれてこの方そこまで女の子に好きになってもらったことはないと思う。もっと早くフェアリーちゃんに会いたかったって思ったろうな」

フェアリーちゃん「すごーい、どうしてわかるの。オザケン君、こないだ全く同じこと言ったよ。前の彼女は、オザケン君をいじめる感じだったらしいの」

私「……そうかー……だと思ったよ(だって、あんなに自分に自信のない人、女王様にはいいおもちゃにされちゃうだろうなぁ。むしろそういう恋愛関係しかあり得ない感じだもん)。だから、肯定的な感情を向けられるのに慣れてないんだよ。加えて、女の子とマトモに付き合うのも慣れてないんだろうから」

フェアリーちゃん「そうなんだよ、どうしてわかるの? それもオザケン君、同じ事言ってた」

私「そうかぁ(……やっぱな……)」

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この調子で相談は続いたが、それにしても驚きを禁じ得ない。「たで食う虫も好きずき」とは言うけれど、本当にこんなことがあるのかと目を疑った。捨てる神あれば拾う神ありというか。

苦労嫌いのブラックスーツ先輩と結婚する気になってしまったアップル先輩といい、見るからに甲斐性なしのオザケン君に強烈にやられているフェアリーちゃんといい、恋の力は恐ろしい。いやなんていうか、クレイジー。

賢くて能力のある女性が変な奴に引っかかっているのを見るのは辛い。女は、結婚した相手の男がろくでもないと、この西暦2000年代にすら人生を引きずり回されることがあるのだ。自分の人生という最大量のコインを全額賭けるルーレットは、冷静かつ厳粛、慎重に選ばなければならないと思うのだが、そううまく事は運ばないようだ。

何もない私にはそういう悩みもないが。ブーケは飛んできたがその後、神様からの音沙汰は全くなし。神様、さぼってるねあんた。西洋の神様は気合いが足りん。京都の神様みたいにキリキリやらないと。この私の縁のなさはハンパじゃないんだから。

02/9/9(月) am アイデンティティ

『向田邦子の青春』という本を読んだ。

まるで女優なんじゃないかというような恐ろしい美貌で、すっと伸びた背筋と美しい目が印象的。昔中学校の教科書に載っていた彼女の写真はおそらく晩年のもので、乳癌という病を超えてカミソリのような鋭さがあったが、こちらの写真はどれも若い。とんでもなく若くて、しかもナイススタイルで美人。こんな風に美しくて、しかも頭まで良かったら、どんなに人生が楽しかったろうと思う。

きっともてただろうと思うのだが、向田邦子は一生独身だった。キャリアウーマンとして一本筋を通した人生ということなんだろうか。縁がなかったからではなくて、仕事をやり抜いたからだったのかもしれない。

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私は東京に来て、結構頑張っていると自分では思う。

我ながら、ここに根を張ろうとして、試行錯誤しながら一生懸命生きていると思う。空気も水もきれいなところで、同じ仲間たちと一緒に大きくなった植物が、いきなり全く環境の違う所へ、見慣れない花に周りを囲まれた状況の中に植え替えられたようなものである。

毎日毎日私は必死だ。東京という街に慣れるため、仕事についていくため、本当に頑張っていると自分で胸を張って言える状況になっている。もしかしたら、今までで一番大変な状況かもしれない。

何よりこの無敵の「ひとりぼっち」感。同期が仲間っていう感じがしないのだ、若すぎて。年が同じだとしても、同じ配属先にはあまり悩みのない人が多い。大学院卒だと話が合うというのは何ヶ月も前にわかっていたことで、職場ではむしろ3年目の先輩とかの方が話していて気安い(同い年なんだから当然)。

全く「仲間」と思える人たちもいないことはないが、日常には会えないので意味がない。「後輩」の雰囲気全開の同期たちと、感じとしては同い年で一番話の合う層はみんな「先輩」と、仲間ナシ状態。実に宙ぶらりんな立場。

昼に社員食堂に行けば大体の同期に会えるのにもかかわらず、私はわざと外で買ってきて職場で女性の先輩たちと食べるようになってしまった。久しぶりにこの間社員食堂に行って、同期の女の子に「いやぁ久しぶりだね」と言ったら、「だって来ないじゃない」と言われた。だって仕方ない、話してても面白くないんだもん。

ずっと前に、一緒に研修を受けた同期のある人から、私がとても「哲学っぽい」と言われたことがある。あの時は「はぁ?」と思ったものだったが、今となってみれば、この同期とのあわなさ加減、多少はやっぱり哲学しているのかも知れない。

でも原因はやはり身近な同期に地方の人があまりいないということだろう。東京の閑静な住宅地と、文学部にもお金をたっぷりかけられる良き環境の大学で純正培養された坊ちゃん嬢ちゃん目白押しの中に放り込まれてるんだから、仕方ないか。

そういえば、研修の時一番話が合ったのは、高知出身の院卒の女の子と、鹿児島出身の院卒の女の子だった。高知に鹿児島。宮尾登美子のにおいがぷんぷんする土地柄。ちなみに、私の土地柄は「おしん」だけど。

この街のどこかに、ちゃんと居場所を作りたいと強く思う。地に足のついた金銭感覚と、冬の寒さを知りながらなお前を向いて歩いているような生き方の人はどこかにいないものだろうか。

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私が働いているのは華やかめの部署なので、全く人種の違う人と話をする機会も多い。「華やかすぎる」人たちである。彼らの行動は、時に信じられないものがある。

こないだ、アップル先輩が私に同じ部署のブラックスーツ先輩と結婚することになった、と私に告げた。ブラックスーツ先輩とは、まさに「金持ちのワガママぼっちゃま」風の雰囲気がぷんぷんする、頭はいいが私はちょっと個人的な人間関係を避けたい人だ。髪をかき上げるクセがある。

この先輩は自分のやることに邪魔になると、容赦なく自己主張を通すタイプの人で、特に相手が弱い立場だと輪がかかる。また、金銭感覚もだいぶぼっちゃま風で、どれだけ金をかけてもまずいものは食いたくない、というような贅沢ぶり。

この間、他の人たちと一緒に食堂に行ったら、ブラックスーツ先輩はその日のランチがまずいと言って食べてる間中酷評。しまいには半分以上残した皿の上の食べ物を、「どうしてこんなにまずいんだ。何でできてるんだこれは」「これなんだろ?これは何?」といいながらフォークとナイフで掘り返していた。そのあまりの下品さに私は唖然とし、婚約者であるアップル先輩が一緒にいなかったら思いきり軽蔑のまなざしを投げるところだった。

そういう行為を、見ていて誰も注意せず、さも当然という風に笑っていたのが私にはとても信じられなかった。この世にはごはんを食べられない人がいる。調理の結果まずくなってしまったこの料理も、元の食材は誰かが一生懸命育てたものばかりだろう。そういうことに全く思いを致さないくせに、30秒後には池袋のギョウザを食べ歩きしたいという話で盛り上がる。全く信じられなかった。

ブラックスーツ先輩の行動は、飽食&美食の結果、そういう想像力を無くしてしまった貧弱な精神性をもろに現していて、見ながら私は「この人ホントに30だろうか?」と思った。

アップル先輩! 絶対こんな人と結婚しない方がいいですよ。こう見えても私、人間を観察する力はあります。こういう奴は、生活苦の吹雪から一も二もなく「かっこわるいし辛いから」と言って逃げ出すタイプです。わが子のおむつさえ「臭い臭い」って言って顔背けますきっと。恋人としてはOKでも人生の荒波を乗り越えるには役不足。こいつにあなたはもったいない!!(言わないけど)

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そういうわけで、私は職場でよほど付き合う人を選ばないと、とんでもなく価値観の違う人たちの洗礼に悲しい思いをするので、最近そういうのに敏感にアンテナを張るようになった。

背伸びしてそんな人たちに染まりたくない。私は私なりの、中身の詰まった人生を送りたい。土を耕して畑作りをし、2メートルを超す雪を毎朝雪かきしていた祖父の、汗だくの後ろ姿と土で汚れた大きな手を見て育った私である。祖父がくれたものを私は絶対なくさない。地植えのトマトが、ハウス育ちのマスクメロンの真似をする必要なんてない。

こっちに来てから毎日、"アイデンティティ"ってものを試されている。

 


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02/9/2(月) am まっすぐ空から降ってきた

高校時代の友人の結婚式に出席するため、山形に帰った。

挙式から出席したのだが、誓いの言葉と指輪交換の重たさに胸をえぐられるような衝撃を受けて、半ば燃え尽き状態になった。

何しろ、指輪を相手の指にはめる前に、この指輪は自分の誠実さと変わらぬ愛の証です、って相手の目を見てはっきり言いきり、そして指輪をはめるのである。死ぬまでこの人ひとすじです、って誓うのである。親類縁者一族郎党、プラス友人一同職場の面々もろもろが勢揃いして、真っ正面にキリストまでご丁寧にいちゃってる空間で誓っちゃうのである。

自分ならとてもたえられない。

こんな大勢の前でそんなことを誓ってしまう重みに衝撃を受けた(まあ、友人や妹の結婚式等に出るたびいつも衝撃を受けてるんだけど)。あなた誓えますか。そんなこと。

誓えない。絶対誓えない。そんなことをやってのけるだけの相手なんかこの世にいない。ああ、考えられない、一生誰かひとりと一緒にいますいつづけます、病気になってもとにかく一緒にいます、なんて。言えない。とても言えない。

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絶対に不倫はすまい。こんな大事をやってのけた両人の間に割り込んでどうのこうのやったら、きっと流血沙汰になる。……まあ、私には不倫相手候補すら見あたらないけど。

「結婚」の二文字が絡んでる関係の間に入って略奪愛だのなんだのというのもやめよう。そんなことを言える勢いのある人が絡んでたらどんなことになるかわからない。生き霊飛ばされる。おおこわ。……まあ、私にはそういう相手候補すら見あたらないけど。

何を置いても、結婚式という大事をやってしまおうなどという気分になれるほどの相手になりうる人間がこの世にいるとはとても思えない。自分が真顔でこういうことをもしやるのだとしたら、それは衝撃、いや笑劇である。

(いやまて、それができなきゃ結婚できないじゃん)

私ははたと気付く。

もしもまかり間違って、式をやろうという気になって式場をおさえ招待状を出し当日が来てドレスをまとい、父親にぐわしと式場のドア前に連れてこられたとする。

「やっぱだめだ! たえられないごめん!!」

と叫んで一目散に逃げてしまう私……という姿が目に浮かぶ。

前夜、新婦である友人からわざわざ電話がかかってきて、「ブーケトスの争奪戦にちゃんと参加してね」と言われた。それがなければ参加しないつもりだったのだが、新婦のお願いだから、と思って一応後ろの方にぼーっと立ってみた。

新婦は後ろを一回見た後、前に向き直ってブーケを放り投げた。高く舞い上がり、まっすぐ飛んでくるブーケ。

(……えっ)

まっすぐ飛んでくるブーケ。

やっぱりまっすぐ飛んでくるブーケ。

私の胸元に、まるでねらいすましたように、まっすぐ飛び込んでくるブーケ。

そして、スポッとブーケが私の手の中におさまる。

(おぉ?)

スポッと、ブーケが、私の手の中に

私の…手の…中に??

「おおおおぉぉおぉ!?」

笑劇。いや衝撃。愕然とする私。手の中には、丸く作られたピンクと白のブーケ。衝撃の鐘が頭の中で鳴り響く。除夜の鐘が16ビートで鳴り響く。一緒に出席した友人は大笑いする。

引き出物等が入った大きな紙袋にピンクのブーケを入れて、東京に戻った。ずっと使っていなかった花瓶に生けたら、部屋の中がぱっと明るくなった。

ブーケを受け取った人間には、近いうちに「幸せ」が訪れるらしい。

よーし、来るなら早く来い。来られるもんなら来てみろってんだ。相手なんかいないんだぞ(なぜか喧嘩腰)。予兆ばっかりでじらすのはもうやめてもらおうか、神様。この状態からどうやって料理するのかお手並み拝見。

神様、あなたが最終的に作ろうとしているのがウエディングケーキだとしたら、私の今の状態は一粒の麦。十分な量もなく、粉にすらなってないのにどうやって作る気なのでしょうか。

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冗談はさておき、たぶん新婦である私の友人が、私の不幸さ加減を見るに見かねてわざとこっちに投げてくれたんだろうと思っていたのだが、そういうことでもないらしい。本当に偶然にこっちに来たようだ。

長い人生、ブーケがまっすぐ空から降ってくることもあるらしい。

こんなに縁起のいいことは、最近とても久しぶりだ。今日のことは、ずっと忘れずにいるような気がする。

 

 

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