ピューターの特徴や歴史について調べてみました。
ピューターは、スズを主成分とし、これにアンチモンや銅を加えて調整した合金です。その組成はさまざまですが、標準的なピューターは、91%のスズ(Sn)、7%のアンチモン(Sb)、2%の銅(Cu)を含んでいます(*)。かつては鉛を添加したものもありましたが、現在は鉛を含まないものが一般的です。
ピューター鋳物は、銀白色の美しい金属光沢を持ち、柔軟で適当に強さもあるため、花瓶や像などの置物、食器、アクセサリーなどが作られています。
また、ピューターは、家庭用のコンロとホーロー製のなべを用いて簡単に溶解できるので、家庭で鋳物作りを楽しむ材料としては最適といえます。

ピューターのインゴット(約3kg)
ピューターの歴史は古く、少なくとも2000年前に中国でつくられていたことが知られています。また一説には、最も古いピューター製容器は紀元前1500年にさかのぼるという話もあります。
しかし、本当の意味でのピューター工芸は、ローマ帝国占領下のイギリスで始まりました。ローマの兵士たちは、イングランドのCornwallの鉱山から産出するスズからピューター製品を鋳造して使用していました。この鉱山は、当時世界最大のスズ・鉛・銅の鉱山でした。これらの金属は、中世からルネッサンスにかけて、イギリスの主要な輸出品となります。
中世になると、ピューターの人気は急速に高まっていきました。1290年頃、イングランド王エドワード1世は300ものピューター製の皿や塩壺を所有していたそうですが、銀製の皿は一枚も持っていなかったらしいとのことです。 さらに1348年までには、ロンドンが世界最大のピューター製品生産地になります。イギリスでは、ピューター製品に関する品質基準が定められて厳格な管理が行われました。その結果、英国製ピューター製品に対する高い評価が定着しました。
ヨーロッパでピューター製品が一般の人々に使用されるようになったのは15世紀頃のことです。また、16世紀末までにはピューターギルドがパリやマルセイユなど各地に設立されました。そして、17世紀にはピューター製品はその最盛期を迎えます。
しかし、18世紀になると磁器製テーブルウェアの大量生産が始まり、ピューター製品の人気は翳りを帯びてきます。さらには、ビクトリア時代に電気メッキ製品が生産されるようになり、ピューター製品は日常の食卓からは姿を消していきました。
しかし、日常用品としての生産量が減少する一方で、クラフトマンシップに支えられた良質な工芸品としての評価が確立していきました。その重要な契機となったのが、19世紀後半のアーツ・アンド・クラフツ運動とそれに続くアール・ヌーヴォーの流行でした。この時代には、ピューターの鋳造による優れた作品が製作されたそうです。
ピューターは、しばしば「ブリタニアメタル」とも呼ばれます。ブリタニア(Britannia)は、グレートブリテン(英国本島)を女性に見立てて呼ぶときの名称です。このピューターの別名は、イギリスとピューターとの深い関係を物語っているように思われます。ところで、厳密に言うと、必ずしも「ピューター=ブリタニアメタル」ではありません。
ブリタニアメタル(別名「チューダーピューター」)は、18世紀イギリスで発明されました。それ以前のピューターは、スズ、銅、鉛、亜鉛、ビスマスなどから成っていました。「ブリタニアメタル」とは、アンチモンを添加し、鉛を除くことによって、より強く安全な合金として生まれ変わったピューターなのです。ブリタニアメタルは、それまでのピューターよりも美しい光沢とより高い強度を持っていました。この特徴が、陶磁器や電気メッキ製品との競合のなかで今日まで生き延びることを可能にしたのでしょう。
アンチモンを2〜16%含むピューターは、ブリタニアメタル(Britannia Metal )あるいはチューダーピューター(Tudor pewter)と呼ばれます1)2)。また、30%の鉛を含むスズ−鉛系のものは、 Roman pewter と呼ばれるそうです3)。
標準的なピューターの組成は、91%Sn-7%Sb-2%Cuです。これは表1の3または表2の3Pという種類に対応します。
| 記号 | Sn(%) | Sb(%) | Cu(%) | Pb(%) |
|---|---|---|---|---|
| 1 | 94 | 6 | - | - |
| 2 | 91 | 9 | - | - |
| 3 | 91 | 7 | 2 | - |
| 4 | 87 | 10 | 3 | - |
| 5 | 82 | 16 | 2 | - |
| 6 | 94 | 2 | - | 4 |
| 記号 | 配合成分(質量%) | 鋳造温度(℃) |
|---|---|---|
| 3P | 91%Sn, 7%Sb, 2%Cu | 320 |
| 3PL | 94%Sn, 2%Sb, 4%Pb | 280 |
また、ピューターと同様にスズやアンチモンを含む合金に「ホワイトメタル」と呼ばれる合金があります。この合金は工業的には軸受合金として用いられています。また、ホワイトメタルはメタルフィギュアの材料としても使用されてきました。しかし、メタルフィギュア用のホワイトメタルは鉛を多く含んでいたため、最近の鉛使用規制の動きに対応して、鉛を含まないピューターに移行しつつあるそうです。
ただ、一口にホワイトメタルといっても、その種類は、表3に見られるように、スズを主成分とした合金から鉛を主成分とした合金まで様々です。なかでも第1種のホワイトメタルは、表1のピューター3によく似た組成を持っています。
第1種のホワイトメタルは、比較的容易に入手することができるようです。そこで、「日曜日のピューター・クラフト」ではこれもピューターの仲間として取り扱っていきたいと考えています。
| 記号 | 配合成分(質量%) | |
|---|---|---|
| 第1種 | WJ1 | (88〜92)%Sn, (5〜7)%Sb, (3〜5)%Cu |
| 第2種 | WJ2 | (83〜87)%Sn, (8〜10)%Sb, (5〜7)%Cu |
| 第3種 | WJ3 | (78〜82)%Sn, (11〜13)%Sb, (3〜5)%Cu, (<4)%Pb |
| 第4種 | WJ4 | (68〜72)%Sn, (11〜13)%Sb, (3〜5)%Cu, (13〜15)%Pb |
| 第5種 | WJ5 | (68〜72)%Sn, (1〜3)%Cu, (27〜29)%Zn |
| 第6種 | WJ6 | (44〜46)%Sn, (11〜13)%Sb, (1〜3)%Cu, (40〜42)%Pb |
| 第7種 | WJ7 | (11〜13)%Sn, (13〜15)%Sb, (<1)%Cu, (71〜75)%Pb |
| 第8種 | WJ8 | (6〜8)%Sn, (16〜18)%Sb, (<1)%Cu, (74〜78)%Pb |
| 第9種 | WJ9 | (5〜7)%Sn, (9〜11)%Sb, (82〜86)%Pb |
1) 鹿取一男:『美術鋳物の手法』,(アグネ,1983),p.212-214.
2) 金属便覧 改訂4版(1980)および改訂5版(1990)では、特にアンチモンを9%含むピューターをチューダーピューターと呼んでいます。なお、改訂5版では、Sn-(5〜10)Sb合金を「ブリタニヤメタル」=「ピューター」としています(p.658)。これに対して、改訂6版(2000)では、ピューターを「スズを90%以上含有するもので、通常4〜6%Sbを含有し、」(p.598)と記しており、ピューターの定義に混乱が見られます。
3) 金属便覧 改訂4版および改訂5版。ただし、改訂5版(p.658)では、"Roman Tewder"となっていますが、おそらくミスプリントと思われます。
イングランド王(在位1272-1307)。『中世イングランドの賢王』と評されています。皇太子であった1265年、父王ヘンリー3世に敵対していた大貴族シモン・ド・モンフォール伯を破り、王権を再興しました。即位後、イギリスの統一にのり出し、まず、かつてシモン・ド・モンフォールと結んでいたウェールズを攻めてこれを平定、さらにはスコットランドをも占領しました。また、従来の慣習法をととのえて諸法律を定めました。1295年に召集された議会は、国内の各層をほぼ代表したもので、後世「模範議会」と称され、イギリスの政治制度の基礎を固めました。・・・
1995年度のアカデミー賞作品賞を受賞したメル・ギブソン原作・監督・主演の映画「Brave Heart」は、イングランドによる占領に抗して、スコットランド独立のために戦ったウィリアム・ウォレスの物語を描いています。この映画では、敵役のエドワード1世は冷徹な侵略者として描かれています。
イギリスのウィリアム・モリスによって始められた、手作りを原則とする中世的な職人芸を理想とした芸術工芸運動。モリスは、1861年に同志の友人らの協力を得て「モリス・マーシャル・フォークナー商会」を設立し、ここを拠点に、壁紙やステンドグラス、書物、家具など生活全般のデザインを手掛けました。この運動の背景には、産業革命から生まれた機械的大量生産がクラフトマンシップを軽視し、製品の質への配慮を失う傾向があったことに対する反発がありました。
19世紀末にヨーロッパに興った新しい造形様式の総称で、フランス語で「新しい芸術」を意味します。植物や孔雀、女性などをモチーフとした優美な曲線を有する装飾的なデザインに特徴があります。イギリスでは「モダン・スタイル」、ドイツでは「ユーゲントシュティル」と呼ばれました。この新しい潮流は、建築、工芸から絵画、彫刻、ファッションにいたる広範な分野に及びました。著名な人物としては、ビアズリー、ガレ、ミュシャ、クリムト、ガウディなど。
アール・ヌーヴォー調のデザインは日本人の好みに合っているらしく、特にガレのガラス工芸品やミュシャの絵画作品などに人気があるようです。これらはWebページでもよく取り上げられています。・・・ただ、残念なことに、ピューター製の作品というのはほとんど見かけませんねぇ。
右の写真は、アールヌーヴォー様式のペーパーナイフのレプリカです。オリジナルは銀製で、アメリカの宝飾細工師アンガー兄弟により19世紀後期に制作されたもの。また、レプリカの方はピューターに銀メッキを施したものです。添付された解説メモには、
このペーパーナイフのモチーフ−長い髪で人魚の尾を持ち、うねる波間に浮かぶ夢見るような人物像−はアールヌーボー、すなわち二十世紀の最初の装飾様式に特徴的なものです。と記されています。