私の文字風景Winter 2005
思うこと、気づいたことなどを気ままに綴る落書き帳です。 


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  点灯夢志  - 2月28日 - 
写真:テントウムシ春、日溜りの葉裏からひょっこり這い上がってくる赤いテントウムシ。葉っぱの上をウロウロ歩いては隠れん坊、背中に背負った黒い点々が愛くるしい甲虫の名を 「点灯夢志」と読んでみました。

点字で灯す夢を志してみたい…。スローな私にもこれならできるかもしれない、と通信講座から始めてずいぶん時が経ちました。地元のボランティア・グループに参加し、点字板を使って一点一点打ち込んでいた作業は、いつしか点訳ソフトを使ったパソコン点訳になりました。

墨字一文字に、一つまたは二つのマスを使い六つの点を組み合わせ、かな・数字・アルファベットなどを表します。それを基本に、各々の規則に従って日本語や外国語、楽譜などの点字訳が生まれます。

道で出会ったTさんが「点字が読めるようになったんですよ!」と嬉しそうにおっしゃったのは、突然視力を失われて4、5年経った頃でしょうか。およそ7×4ミリ四方の小さなマスに並んだ六点(3点2行)の凸面を指で触読することは並大抵ではなかったはず。いつも明るい笑顔に隠された、計り知れない努力の結果を思いながら、弾んだその一言に感動を覚えたことがありました。

志を共にする輪の中にいて、色んな事を教わります。一冊の著書点訳に取りかかると、繰り返し読み返すことになり、今まで全く無関心だったことを知るきっかけになり、興味もわいてきます。「普通は見過ごしてしまいそうな些細なことも、関わっているからこそ関心を持ち見えてくるものがある。そんな何気ない繋がりってとてもうれしいね!」とおっしゃった先輩の言葉が身に沁みます。

気持ちとは裏腹に元来の劣等生と注意散漫も加わって、今にも葉っぱから転がり落ちそうなわが点灯夢志…。上へ上へと上り詰め、やがて飛び立ってゆくテントウムシの習性をほんの少し見習い、春風に揺れるアブラナの茎にしがみついてみようかしらん…

----- 地元でご活躍中のTさんと盲導犬フラッシュのサイトはこちらです(右上の画像クリックでも可) -----
  匂いの話あれこれ - 2月14日 - 
写真:紅梅とオオイヌノフグリ飾り棚上のポトスがしおれている。鉢を下ろし、陶器の鉢カバーに溜るほど水道水を注ぐと、硯で墨をする時の匂いがした。伸び過ぎてはカットしながら、もう20年近く当時と同じ用土と鉢で育っている。この鉢に水をやる度に感じるこの墨の香りは、部屋の微生物と用土の発酵が関係するのだろうか。心地よい墨の香りを発する不思議なこの匂いの正体が知りたい。

酷寒の季節に、玄関のドアを開け外気を連れこむ瞬間に感じるなんとも不思議な冬の匂い。
「どんな匂い?」と問われると難しいけれど、非現実的に表するなら、森の精霊が運び込む一瞬の爽やかな風の匂い、と言えるかもしれない。内と外の極端な温度差とが相俟った空気の融合から生じる現象なのだろうか。忘れたころに再び遭遇するその匂いに気づいたのはいつのことだったろう…。

物心ついた頃、春山で遊ぶと必ず漂ってきた匂いがあった。とても芳香とはいえないけれど、懐かしい春山の香りだった。
その不思議な匂いの原因を、数年前にやっと知った。穏やかな林の斜面には、あちこちにはヤマツツジが咲いていた。見慣れたピンクの花色とともにいつもの香りが漂ってきた。かなり強い匂いにつられて見回すと、小さな花を無数につけた木があった。近寄ると、間違いなく凝縮されたその匂いだ。子供の頃から疑問に感じてきた春の匂いは、神柴用に使うヒサカキの花、その匂いだった。

布団を干した夜のお日さまの匂い、日溜りの枯れ草の匂い、真夏の草いきれの匂い、宅急便の古新聞に沁みた故郷の匂いなどなど、花の香りはもとより、自然の香りが記憶の中を行き交っている。風邪をこじらせしばし嗅覚を忘れたせいか、疑問を伴う匂いの記憶を綴ってみたくなった。  
  悲しき天使 - 2月2日 - 
ジャケット写真思い付いて引っ張り出した60年代の古いドーナツ盤。広川あけみアップルサウンドを歌う! とある。
ジャケットには、トラッドファッションに身を包み、ギターを抱えた清楚な彼女の写真。

当時19歳だった私は、同年齢の彼女が歌う「悲しき天使」を聴きながら、軽い憧れを抱いて同じ写真を見ていた。色あせたビニールケースには、その頃暮らした街の楽器店の名が印字されている。
ひと足早く自立した私は、わずかな収入の中から得る小遣いのほとんどを、好きなレコード代に費やしていた。洋邦楽を問わず、感性を揺さぶる音楽に出合うとまっしぐらにレコード店に駆け込んだのだった。

そんな時代のレコードを、息子が残した古いコンポにレコード・プレーヤーを繋ぎ、改めて聴いている。
一曲終える度に盤を裏返す作業。CDと違い両面で一枚だから、EP盤だと片面2〜4分、LP盤でも精々30分ほどだろうか。何事もスピードを求める現代人にはやってられない話だろう。

そんなレコード盤もいつしかコンパクトディスクに変わり、今やインターネットを介して、小さなチップに無数の音楽を保存できる時代になった。留まるところを知らない進化の一途には少なからず不安感を覚える。

鈍りゆく処理能力に反し加速化する情報量、その波に飲み込まれてしまいそうな昨今、スローな時代を一生懸命に生きた青春の日々を回想しながら、自分に似合った暮らしを模索してみる…。