文字が見えにくいときはプラウザの「表示」から 文字サイズ→中程度 でご覧いただくと良いかと思います。


   
第一歌集



(1〜100)

頼もしく将も寂しく思うかな 諭した子らに教わる日々

災難に遭いて幼く逝きし兄  その面影を吾は知らずも

雲仙の地底激しく燃ゆるらし 山噴き裂きて噴煙上げる

暗くなる吾の心に火を点す 心優しきひとの居るかな

生還を喜び切れぬ思いかな 戦いて逝きし友らもありて

畦道の枯れ草に降りし朝霜の 登り来る陽にきらめきて見ゆ

季節風に浮かれ楽しむ群れがらす 曲芸のごとく二羽のもつれる

元旦の朝テレビに映されし 富士は真白き雪を被れり

良い年に成るかと思う蜜峰の 集まり来たる初夢を見る

白水の原生林の森で聞く 妻恋う鹿の啼き声悲し

歌を詠み余生を送る幸せを 胸に抱いて夕空を見る

山水の掛け図の如く美しき 木浦の奥の布水の滝

湾岸の戦さ日増しに荒び来る 戦場に生きた者の悲しや

愛しさの深くぞなりて空腹の 時に盛らるる飯見る如し

一ツ瀬の川の流れも子を思う 親のこころも断ち難きかな

花の芽も白く綻び梅の香が 今朝吹く風に漂いて来ぬ

仕事して生計をつなぎ来し その夢を見る病床に居て

春寒の凍る夜空に登り来る 研ぎ澄まされし氷輪の月

吾が性を離れ養子に入りし子を 哀れにも思いこころ寂しも

幼女のこけし姿はお河童で 木材でありしを今は止めず

乙女らは花の盛りを空しくも 独り燥やぐ悲しくなきや

前庭に吾の作りし風車 春一番に忙しく騒ぐ

薄白く雲りし空の沈みたり 肌寒き夕辺雪の降るかも

時折に吾に文来るる人のあり 涙ぐみつつ夕空仰ぐ

黒雲を漸く抜けし月光る 吾が影道に仄かにうつる



農を継ぐ養子に変わる息子らに 内孫なりしも伴にゆきたり

白馬なる大地の墓に眠らむか 吾の生命つきたるのちは

うつし世はこの身の上に又と来ぬ 淀む瀬のごと静かにゆかん

幼い日のあの稚いけな頃思う みたりの子らの母となる娘を

夕空に青く光れる星の出ず なす事もなく今日も暮れゆく

敗戦の時は異国の島にあり 玉砕の日を思いしもある

山坂の道登る如く歩き来て 虚しく思う療養の日々

秋山の多彩な色の楽しめり 眼見ゆるは幸せなりし

細長くビニールの畦の並びたる 煙草畑の春陽まぶしき

大いなる太平洋に注ぎ入り 大淀の川の流れ終わりぬ

建築で生計立つる息子らの 作業場に入るや木の香漂う

新築の玄関入れば仄ぼのと 目に沁む如く木の香漂う

咲きほこるダリアの如き人に会い 激しく心のときめき覚ゆ

すこやかに暮らせる故に戯れ言の 時たま言えるも幸せなりき

大寒の朝は冷たき風すさび 黒い浮き雲北空をゆく

夕明かり樹々の葉裏を反しゆく 浅き春風肌に冷たし

左官する末の息子の鏝さばき 修業時代の苦の陰もなし

有り明の月は川面を照らしいて 夜も白々と明けて来にけり

畦焼きで黒くやかれし萱かぶの 狭間狭間につくし出にけり

火の消えし竈にしばし佇みて はなれし里の妻思うかな(独り居に)

吾は今子らの強請(ゆず)るを逃れども 孤独に心おくそらもなし

夜の明けし空に聳えし地蔵岳 独り眺めつ朝食をする(独り居に)

花香る若き浮き世は遠く過ぎ 五十路の坂を吾は登りぬ

出稼ぎて子らと戯れる夢覚めて 寂しき夜半の雨の音かな

明日には皇頂きしも月の 落葉踏みつつ山に登れり


親故に子ら育つるに苔むしつ 無事であれよと何時も祈らん

貧しくも僻む事なく育ちゆく 子らを頼もしくいつも思いぬ

何ひとつ吾の物などあらねども 何故か古里恋しかりけり

黄昏て今日の務めの荷もといて 湯舟に深く身を沈めたり

峰をゆく風に寒夜も吹きあけて 雪の朝餉の汁におうかな

打越の峰に座りて白くもの 流れる空を独りながむる

本を読む耳に入りくる啄木鳥の 激しき音の裏山にする

語るのも心寂しいや宮谷の 空に薄れし三日月の夜

真夜中に目覚めて見れば 仄白き窓の外にぞ星の光れり

名月や山をへだてし古里の 妻子も月を眺め居るかも

人生は長きものかも幼き日 思い出多く重ね来にけり

昨日より今日はうたえるうぐいすの 調べ聞きつつ昼餉するなり

吾が願い理解して見る事もなく 吹く夜の風の冷たかりけり

話し合う事も出来ずに病む妻と 青空の今日も家にこもりつ

長谷の小砂の流れ瀬堀する やまめの斑点鮮やかに見ゆ

華やかなビルの谷間の人ごみを 語る者なく独りそぞろく

山吹を欺くごとく色染めて とどろが渕の榎燃えたつ

月掠め薄く一刷毛はく如く 真白き雲の止まりており

徒な風に切らるる蛛の巣の キラリと光り山肌をゆく

山深き銀鏡神社の夜神楽の 凍てつく霜夜賑わいにけり

半世紀盲(めしい)の如く流れたり 語れば多し吾の思い出

牡鹿啼く声も悲しや韓国の 賽の河原の秋の夕暮れ

秋風に樹々色づきて岩肌も 夕陽に映ゆる龍房の山

紅葉に韓国の丘色づきて 硫黄の噴煙たな引きており

米良街道登る終バスの客達の 話しとだえて車内火点る



木枯らしに吹き磨かれし柿の実の まろやかに光り夕陽に映ゆる

狭苦し伏し床のカーテン透け見えて 秋の長夜の白み来にけり

神木なる大楠の枝の茂みより 透かして見える青空高し

立ち茂る渓谷の木々の枝えだに あけび色づき風にゆらげり

尾花立つ野末の畑に一本の こすもす匂う秋の夕暮れ

高原の尾花の揺るる野に立てば 輪を書きし鳶の遠く飛びゆく

白水の原生林に入りゆけば 俗世の暮らし忘るる如し

韓国の裾野に燃ゆる山錦 小雨にぬれて美しきかな

振動病の苦痛を苦にし自殺と言う 記事読みたりし吾も振動病

霧深き夜明けの町に濃く薄く 滲みて見ゆる街燈のあり

四方山の峯美しく色づきて 田圃に黄金の穂波さざめく

大役を果たして残る空蝉の生き居る如く木にしがみおり

寸鉄も帯びず適地に怯えたる 思い出濃ゆき敗戦の日々

台風の来る兆しかな龍房に雲の群がる今日の夕暮れ

裏山で異なる声して鴉鳴く 不吉を人に知らするごとし

渓谷の落ち葉流るる浅き瀬を もつる如くに山魚瀬堀りす

荒々しき野生気立てる猪の 谷間の茂み駆け抜けてゆく

流れ来る夜気の素肌にしみ入りて 秋虫すだく頃となるかな

風そよぐ渓間に喉を潤せば 葛の落ち花流れ来にけり

薄絹の白布の如く風に揺れ 水こき落とす布の水の滝

南国の果ての小島に還る日を 待ちし思い出敗戦の日々

僅かなる空地も置かず夏草は コンクリートの割れ目もうめし

警笛の標柱伝う葛蔓が マークを除き巻き立てており

合鍵で留守に立ち入り寛ぎぬ 此処も吾が内子等のアパート

開発に形の変わる田舎道 記憶に残る物の消えゆく
                                  【次へ】